キャリアノヒントの最初の記事の中でキャリアコンサルタントの中野淳志さんは、キャリアの語源を「轍」(人生を歩いてきた後にできる足跡)だと紹介されました。全ての足跡がキャリアだとすると、無償労働である家庭の主婦(夫)経験もキャリアなのではないでしょうか。
はじめまして。マジックパパ代表の和田のりあきです。
私は17年前に勤めを辞して主夫になり、家事育児を中心に様々な活動と仕事をしてきました。
非営利活動としては地域ボランティアやNPO。営利活動としてはアルバイトや正職員、そして自営で子育関連講座と親子イベントの講師をしています。
私の経験の中でわかりやすくマイノリティな部分があるとすれば、主夫という経験です。
社会に生きている大人ならば誰でも特別な自分だけの経験をしているもの。その経験に得意不得意と好き嫌いを掛け合わせると、自分だけの特別なキャリアが浮かび上がってきます。
この連載では誰でも持っている自分だけのキャリアを元に、仕事や働き方を作っていく方法を主夫の体験を元に考えていきます。
和田のりあき さん|マジックパパ代表
「子どもがワクワクする大人になる!」が合言葉。小四からマジックを独学。学生時代にはマジック道具の実演販売アルバイトでNo1の売り上げを記録。TVプロダクションに就職し報道カメラマンに。和歌山毒物カレー事件などで密着取材をする。子どもの誕生をきっかけに主夫になり2人娘を育てる。保育士資格を取得し、NPO法人ファザーリング・ジャパン関西理事長、保育園園長を経てマジックパパを起業。10年間で500回の子育て講座やイベントを開催。 和田さんプロフィール
キャリアノヒント特別連載。マジックパパ代表の和田のりあきさんから「家事育児から広げるキャリア」をテーマに寄稿いただきました。
主夫業はコミュニケーションスキルが身に付く
主婦(夫)、シュフ、主ふ。主に家事育児を主担当している役割の書き方の代表的なものはこの3つでしょう。しかしどれもしっくりきません。この記事は男性の主夫が書きますので、シンプルに主夫で統一します。
子育てをされていない主夫(婦)もいらっしゃいますが、ここでは基本的に乳児〜小学校低学年を子育て中で、家庭での家事育児を主担当している人を主夫として書いていきます。
さて、主夫業で身に付いた能力の筆頭はコミュニケーションのスキルだったと私は感じています。一般的な仕事でもコミュニケーションスキルは身に付きます。
でもそれは同じ職場・会社・業界内で同じ目的を持つ、同じような仲間との間でのコミュニケーションに限られることがほとんどです。
たとえば私の最初の仕事、テレビ制作プロダクションでしたら、テレビ番組を制作するという目標に向かって、業界用語で会話をして、阿吽の呼吸で作業をするのがコミュニケーションでした。
でも結婚すると違います。まず、家族という共同体の目的がはっきりしていません。夫婦間で生まれ育った環境が違えば性格も価値観も違います。その間でどうにかコミュニケーションをとりながら生活をする。
パートナーならまだ言語が通じます。ところがそこに子どもを授かったら、赤ちゃんから幼児期は言語も通じません。言語が通じない相手ともどうにかコミュニケーションを取ってお世話をする。それも価値観の違うパートナーと連携をしながら。
育児で身に付くコミュニケーション能力は、仕事で身に付くコミュニケーション能力とは次元が違うものなのです。
主夫業はマルチタスクが身に付く
乳児期の育児は常にマルチタスクです。なぜならば赤ちゃんの生命を守ってお世話をするというタスクは24時間休みなしだからです。主夫はそれと並行しながら家事その他のことをこなさなくてはなりません。
自分の時間も大事です。これが抜け落ちていると自分も家族も気付かぬうちに産後うつ状態に陥る危険性もあります。
緊急度重要度マトリクスという有名な表があります。ビジネス研修やライフハック系記事でよく見かける表です。
日々の仕事の中で、緊急度も重要度も高いA領域の仕事は当然ながら優先します。しかし緊急度は高いけれど重要度の低いC領域に気を取られすぎると、B領域の緊急度は低いけれども重要度の高い仕事に手が回らなくなる。
主夫業にももちろんこの傾向はあって、たとえば日々の子どもとの関わり、コミュニケーションは緊急度は感じにくいですが、重要度はとても高いB領域の仕事なのです。 しかも主夫のマトリクスはこれが複数、重なり合っています。
子どものマトリクス、家事のマトリクス、パートナーのマトリクス、そして仕事をしていれば仕事のマトリクス。 これらが複雑に重なり合っている中で日々のタスクをこなす。
単一の仕事上だけの緊急度重要度だけじゃない、複雑なマルチタスクを日々こなしているのが主夫なのです。
主夫業の人脈は特別
そしてもう一つ、主夫業で忘れられがちなのがご近所付き合いです。子どもが生まれるとご近所に友達が必要になります。子どもの友達はもちろんですが、パパ友・ママ友も同様に大切です。
「子どもは地域へのパスポート」とは父親支援NPO、ファザーリング・ジャパン代表安藤哲也の言葉です。子育てに主体的に関わっていると、子育て友達や保育園・幼稚園・小学校の先生はもちろん、地域で古くから活動しているボランティア団体など、子どもに関わる様々な大人とのつながりができます。
そこでできる人脈、営利を目的としない人との繋がりはビジネスではなかなか構築し難いもの。私自身も地域の催しに積極的に参加することでたくさんの『ご近所さん』ができました。そしてテレビの仕事では得られなかった価値観や知見を得られました。
将来の仕事や稼ぎに活かすために、ご近所さんを作ったわけではありません。子育てをしていく中で自然にできたつながりです。
でもそれらは今現在、コロナ禍の中で稼ぎを継続する上で心強いものになっています。
まとめ
本項では主に乳幼児を子育て中の主夫(婦)の生活の中で身につくスキルを中心に書きました。
上の3項で挙げた「コミュニケション力」「マルチタスク」「人脈」は社会人が身につけるべきとされているスキルの代表的なものでもあります。
しかも生活の中でそれらの能力を、ビジネスとはまた違った角度から違った内容のスキルを身につけることができるっのが主夫(婦)。
キャリアを積むということを、仕事の経験を積み仕事で役立つスキルを上げることとするならば、育児家事とご近所付き合いをこなす主夫(婦)業は正にキャリアなのです。
次回のテーマは「兼業主夫(婦)はパラレルキャリア」です。お楽しみに♪