農業とICT技術を融合させる「アグリテック」。「ドローンが田んぼの上を飛び、農薬を自動散布する」「ビニールハウス内の異常を検知して生産者に知らせる」など、農業の負担を軽減するものとして期待されています。
この記事では、アグリテックの説明や社会への影響、企業の取り組み、アグリテックに関連する職業などについて詳しく説明していきます。
アグリテックとは
アグリテック(AgriTech)はAgriculture(農業)とTechnology(技術)を組み合わせた造語です。従来の農業は人の手や経験に頼る部分が多く「天候に左右されるし、収入が不安定」「規則的な休みが取りにくい」「体力が必要」などの面が、若者の農業離れの原因にもなってきました。
アグリテックはAI、IoT、ビッグデータなどのICT技術を農業に取り入れることで、こうした課題を解決し、ビジネスとしての成長を目指します。ここで説明の前提となる用語を理解しておきましょう。
ICTとは
ICTとは「Information and Communication Technology(情報通信技術)」のこと。通信技術を使って、人とインターネットや人と人がつながる技術を指します。
「IT」がコンピューターやソフトウェアなどの情報技術そのものを指すのに対し、「ICT」はメールやチャット、ネット通販などITを用いて情報をやりとりする手段を意味します。
IoTとは
IoTとは「Internet of Things(もののインターネット)」のこと。これまでパソコンやスマホで接続するだけだったインターネットを、通信機能やセンサー、カメラなどを搭載したあらゆる物とつなぐことを指します。
「外出先からエアコンや照明の電源を入れる」といった遠隔操作や、「IoT化したペットの首輪から運動力と食事量を把握して健康状態を確認する」といった状態確認、「バスの運行状況や混雑状況を把握する」といった物や人の動きの検知がIoT機能の代表例です。
AIとは
AIとは「Artificial Intelligence(人工知能)」のことで人間の知能に近い「汎用型AI」と、人間の能力の一部を代替する「特化型AI」があります。
ビッグデータを用いて人工知能自身が学習する「機械学習」や「ディープラーニング」が登場したことで、音声認識、画像処理、自然言語処理、予測などの特化型AIがビジネスの分野で活躍するようになりました。
アグリテックの実用例
農業の現場ではアグリテックをどのように取り入れているのでしょうか。実用例を紹介します。
遠隔操作
農業用ドローンを使って大規模な農園に肥料や種、農薬の散布を行ったり、生育状況を撮影したりします。無人ヘリコプターと比べてコストが安い点も魅力です。また、種まき、植え付け、収穫、搬送など多岐にわたる作業をロボット農機で行うこともアグリテックの一例です。
状態確認・分析
ビニールハウス内のカメラやセンサー、走行時に土壌の状態をモニタリングできるロボット農機などを用いて土壌の状況や気温、湿度などを分析。水や肥料を与える適切なタイミングと量を判断したり、収穫の時期や収穫量を予測したりすることが可能です。
水田の水位をデータ化することもアグリテックを導入すればできるようになります。収穫時には植物の色や位置をカメラで検出し、収穫に適したものだけを選べるため、効率的です。
検知
センサーなどを用いて温度、湿度、照度を管理。ブレーカーが落ちて電源がオフになるなどの事態が起きると生産者に連絡するシステムを導入すれば、農場の見回り作業にかかる時間を短縮することが可能です。画像解析で病害虫による異常の検知を行うことで、病気を早期に防ぐこともできます。
アグリテックで社会や業界はどう変わる?
農林水産省によると、農業従事者は2015年の197万7000人から2020年には152万人へと減少しており、そのうち49歳以下はわずか22万7000人しかいません(2020年農林業センサス)。
高齢化する労働力を支えるためにアグリテックによる負担の軽減は喫緊の課題です。また、アグリテックにより農業に対するネガティブイメージが払拭されれば農作業に従事する若い世代も増えるでしょう。
日本の食料自給率は、1965年度には73%でしたが年々減少して2020年度には37%(農林水産省「食糧需給表」)。国は2025年までに食料自給率を45%にするという目標を掲げており、若者の農業への就労を後押しするさまざまな支援制度を用意しています。機械が人の労働にとって代わる面もありますが、一方で、農業用ドローンの操縦者やIT技術者として農業に携わる人も必要になってくるでしょう。
農業業界は、2009年、2016年に行われた農地法改正の影響を受け、大きく変わろうとしています。改正により、法人が農業に参入しやすくなったことから、農地を利用して農業経営を行う一般法人の数は2017年末には3030法人になりました。
2009年の農地法改正直後は427法人だったことを考えると、急激な増加であることが分かります。法人にとっては農業参入が大きなビジネスチャンスと捉えられており、アグリテックを導入してビジネスの拡大を図る法人の参入が今後も続くでしょう。国がICTやロボット技術を用いたアグリテックを推進していることも、この流れを後押ししています。個人経営の農家と異なり、農業法人での働き方は多様です。これまでは「実家の農業を継ぐ」という考えが一般的でしたが、今後は農業が職業の1つとして認識されるようになっていくでしょう。
アグリテックに関連する職業
アグリテックに関連する職業には大きく分けて「生産・品質管理」「営業」「マーケティング」があります。農業は植物を栽培して収穫するだけではありません。販路を拡大したり、国内外に自社の農作物の情報を発信したりする仕事も必要不可欠で、各分野でIoTやICTの導入が急がれます。アグリテックに関連する職業にはどのようなものがあるのでしょうか。わかりやすく説明します。
エンジニア
IoTやAIの活用にはプログラミンスキルやセキュリティに関する知識、ビッグデータやディープランニングへの理解などが必要です。こうした知識を持つエンジニアはアグリテック業界に欠かせない存在といえるでしょう。
また、ドローンに関連したアグリテック業界では、電気電子系統、画像解析技術、電気回路設計などの知識を生かすことができます。ロボット農機を開発する企業では、これらに加えてロボット技術も役立つでしょう。
営業・マーケティング・総務
農家の生産物を販売するための営業、マーケティングでは、SNSを用いた広報やブランディングも重要です。総務や経理では、ICT技術を生かして仕事の自動化や効率化を図ることができます。
また、アグリテックを導入する農家の増加によりロボット農機の需要も高まっており、ロボット農機の開発や販売を行う企業では営業職の募集が行われています。エンジニアとしての知識と農業が抱える問題や業界の動向についての知識の双方が必要です。
アグリテックはこれからの農業に欠かせない存在
農業にIoTやICTを導入するアグリテックは国の後押しもあり、多くの企業が参入している業界です。減少傾向にある食料自給率を上げるという目標と労働力の高齢化や若者の農業離れといった課題に対応するために、アグリテックは欠かせないものといえるでしょう。技術力を持つエンジニアが必要とされており、アグリテック業界の求人が増えていくと考えられます。