勤続年数が長くなってくると、現場でメンバーをまとめるリーダーや管理職に任命される機会も増えてくるでしょう。
働き方やライフスタイルの多様化に伴って、さまざまな価値観を受け入れるダイバーシティ構想も浸透し始めています。
これからのビジネスシーンでは、こうした多様な価値観や意見をまとめあげるための「傾聴力」が重要になると言われています。
そこでこの記事では、傾聴力の概要や鍛え方、身に付けるメリットなどをご紹介します。
管理職が抱えがちな現場での課題
管理職としての役割に慣れないうちは、現場を統率するにあたってさまざまな悩みに直面するケースも多いです。
まずは世の中の管理職やチームリーダーがどのような悩みを抱えているのか、予備知識として理解を深めておきましょう。
管理職になった時のよくある悩み
管理職に慣れないうちは「マネジメント業務」について悩みを抱える人が多いです。
管理職は従業員それぞれの適性や得手不得手を把握し、効率的に仕事が回るように業務の割り当てを行います。
メンバーのことをよく理解出来ていないと、上手く仕事を振れずに悩んでしまうことがあります。
また、管理職は「従業員の成長を促す」という重要な役割も担っています。
従業員の成長は企業の成長に直結するポイントですが、人材育成は得てして一筋縄ではいかないものです。
「管理職の思惑」と「従業員の希望や現状のスキル」が噛み合わなければ、ビジネスマンとしての成長は見込めないと言えるでしょう。
部下の成長が止まって職場全体の生産性が停滞してしまうのはもちろん、リーダーとしての育成スキルが伸びない点も課題となります。
コミュニケーション不足の原因は?
上記のような管理職の悩みは、往々にして「職場でのコミュニケーション不足」が大きな原因となっているケースが多いです。
しかしその一方で、何故コミュニケーションが不足してしまうのかが分からないという人も珍しくありません。
原因としてはさまざまな要素が考えられますが、よくある例としては「接点が少ない」という理由が挙げられるでしょう。
新型コロナウイルスが流行してからテレワークを導入した企業も多いですが、出社日が少なくなれば当然顔を合わせる時間も減少します。
コミュニケーション自体はチャットやビデオ通話で行うことは可能ですが、タイムラグや手間を考えると対面の方が気軽に話せるというのが現実です。
個々の業務に集中してもらうため、オフィスにフリーアドレスや仕切りを導入している場合も顔を合わせる機会が少なくなる傾向にあります。
また、物理的な接点だけではなく「話しやすい雰囲気作りが出来ていない」という精神的なハードルが存在するケースも少なくありません。
仕事の能率を上げるためにオンオフのメリハリを重視し過ぎると、部下たちが職場で仕事の話しか出来ない雰囲気になります。
仕事中に私語が多いのも問題ですが、部下のことを理解するためには本音を引き出せる環境を整えることが重要です。
傾聴力とは一体どんなものなのか
傾聴力という言葉に馴染みが薄いという人は多いかもしれませんが、実は良好なコミュニケーションを実践するための基本的なスキルです。
ここでは傾聴力の概要について解説します。
傾聴力について
傾聴力とは簡単に言うと「相手の言葉に耳を傾けて、集中して話を聴く力」です。
上辺の言葉を聞き流すのではなく、その話の背景にある事情や相手が考えていることを読み解くスキルとなっています。
元々、傾聴力はアメリカ人臨床心理学者のカール・ロジャーズによって提唱されたカウンセリング手法でした。
時代が進むに連れてビジネスの世界でも人間関係における課題点が露見するようになり、そういった諸問題を解決するために傾聴力に注目が集まったのです。
傾聴力では「共感的理解」「無条件の肯定的関心」「自己一致」がロジャーズ3原則として重要視されています。
ロジャーズの3原則
心理カウンセリングや人間関係の向上などに利用される、カール・ロジャーズが提唱するコミュニケーションの方法論です。
この3原則に従うことで、より問題を解決する助けになります。
共感的理解:
相手の話を、相手の立場に立って、相手の気持ちに共感しながら理解することが大切です。
これにより、相手の意見や抱えている問題をより深く理解することができます。
無条件の肯定的関心:
相手の話を、評価しないで聴くことが大切です。
好き嫌い、善悪に関わらずに、相手がなぜそのように考えるようになったのかを肯定的な関心をもって聴くことが大切です。
自己一致:
聴き手は、相手と自分に対して真摯な態度をもつことが大切です。話が分かりにくいときには、相手に対して、自分の想いを真摯に伝え、分からないことを確認することが大切です。
ロジャーズの3原則を適用することで、人間関係の改善やコミュニケーションのスムーズ化など、より良い結果を生むことが期待されます。
参考:
傾聴とは(傾聴とは|こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト)
タイプは大きく分けて3種類
傾聴は「受動的傾聴」「反映的傾聴」「積極的傾聴」の3段階に別れており、必要に応じて使い分けるのが望ましいとされています。
「受動的傾聴」
受動的傾聴は傾聴の初期段階で用いられるベーシックなスタイルです。
とにかく相手の話を受け入れることに徹し、「話を聴いてもらえている」と相手が心を開いて本音を話せる関係を築きます。
聴き手が自分の意見を伝えたり話を誘導したりすることはせず、沈黙が訪れても相手が次の話を始めるまで待ち続けるのが基本です。
「反映的傾聴」
反映的傾聴は相手が話した言葉や内容を、聴き手が相槌に盛り込むスタイルです。
「なるほど」や「そうなんだ」といったシンプルな相槌を繰り返すだけでは、話し手が「自分の話を聞き流されている」と感じてしまう可能性があります。
反映的傾聴では相手の言葉をしっかり聴いた上で、話の要点をかいつまんで受け答えすることが重要です。
話し手が「自分の話を理解してもらえた」と感じれば、お互いの関係がグッと縮まるきっかけになるでしょう。
「積極的傾聴」
積極的傾聴では聴き手が話し手に対して一歩踏み込んだ質問や問いかけを行うことで、相手の思考を後押しします。
最初から積極的傾聴を試みても、話し手と良好な関係が築けていなければ自分の言葉を受けいれてもらうことは出来ません。
受動的傾聴・反映的傾聴を経て相手が心開いた状態でこそ、積極的傾聴が効果を発揮するのです。
積極的傾聴は聴き手の考えを押し付けたり誘導したりするのではなく、あくまで「話し手が自身の考えを深める手助け」であることを意識してください。
傾聴力を高めることによるメリット
管理職が傾聴力を高めていくと、日々の仕事でさまざまなメリットが期待出来るようになります。
何故傾聴力の強化が重要視されているのか、その理由についても理解を深めておきましょう。
リーダーシップが身に付く
傾聴力が高い人は相手からの信用を得られ、職場内で良好な人間関係を築きやすくなります。
管理職がリーダーシップを発揮するためには、自分が仕事が出来れば良いという訳ではありません。
人として信頼出来るリーダーであるからこそ、部下やメンバーがついてきてくれるのです。
部署やプロジェクトを牽引していく存在になるためには、傾聴力の高さがキーポイントとなります。
部下やチームメンバーのモチベーションが上がる
話をよく聴いてくれる頼もしいリーダーが居ると、自然とメンバーの仕事に対するモチベーションが上がっていくものです。
何か悩みを抱えたりトラブルが起きたりした時、誰に相談すれば良いのか分からないような職場では従業員の不安が募る一方と言えるでしょう。
傾聴力に長けた管理職が居る現場は安心感があり、部下やチームメンバーが仕事に集中しやすいのです。
業務がスムーズに進むようになる
管理職の傾聴力が高いと職場全体が発言しやすい雰囲気になるため、メンバー同士でのコミュニケーションが活発になる傾向があります。
コミュニケーションは仕事の最も基礎的な部分のひとつであり、その質や量が業務能率に直結すると言っても過言ではありません。
現場を監督する管理職自らがコミュニケーションの質を高めることで、部署内全体にその流れが伝播してチームの連携力が向上するのです。
傾聴力の鍛え方
傾聴力は難しいトレーニングを積む必要がなく、普段からいくつかのポイントに気を付けるだけで鍛えることが可能です。
以下のやり方を参考にして、傾聴力の強化に励んでみてください。
話を聴く姿勢や態度に気を付ける
相手の話をしっかり聴くためには、まず自分の体制を整えることが重要です。
相手が話しやすいように、腕を組んだり肘をついたりしないよう気を付けましょう。
座って話を聴く場合は姿勢良く座るとともに、少しだけ前のめりになって相手に興味を持っているスタンスを暗示すると効果的です。
会話の割合を意識する
傾聴の基本は「相手の話を聴く」という点にあります。
したがって、聴き手が自分の言い分を長々と話してしまうのは基本的にNGです。
大切なのは相手にたくさん話してもらい、自分の発言は最低限に留めるということでしょう。
例えば受動的傾聴であれば話し手9に対して聴き手は1、積極的傾聴の段階でも話し手7に対して聴き手3くらいの割り合いを意識してみてください。
ミラーリング
傾聴力を上げるテクニックとしてよく知られているのがミラーリングです。
ミラーリングでは相手の態度・仕草・声色に合わせて、自分も同じアクションを起こすことでリラックスした状態を作り出します。
やり過ぎるとわざとらしくなってしまうので、適度な頻度を心がけましょう。
バックトラッキング
話し手の言葉を聴き手がオウム返しする手法をバックトラッキングと呼びます。
反映的傾聴においてよく用いられるテクニックであり、自分が相手に対して共感しているとアピールすることが可能です。
すべてをオウム返しするのではなく、会話の要点を抜粋して相槌に盛り込むと自然に聞こえます。
ミラーリング同様、多用すると違和感がにじみ出てしまうので気を付けましょう。
実践にあたっての注意点
傾聴を実践するにあたっては、いくつか注意しておきたいポイントもあります。
効果的な傾聴を行うには、次の点は押さえておきましょう。
相手の話を遮らない
傾聴の基本は「相手の言葉を引き出す」ということであるため、話を途中で遮ってしまう行為は望ましくありません。
例え会話中に言いたいことがあっても、相手の話が終わるまでは聴くことに徹してください。
相手の言葉を否定することも、話し手が次の話題を出しにくくなってしまいます。
説得やアドバイスをしない
傾聴は自分が相手を諭すのではなく、自分が相手を理解するためのアプローチです。
したがって、聴き手が自分の考え方を話し手に提示することはそもそもの前提が崩れてしまいます。
傾聴の主役は自分ではなく、あくまで話し手であるという点には十分留意しておきましょう。
自分もリラックスする
いろいろなことに気を遣って根を詰め過ぎると、せっかく相手が話してくれた内容を理解出来ず仕舞いになってしまう可能性があります。
傾聴では相手をリラックスさせることも重要ですが、自分自身も肩の力を抜いて相手と同じ目線に立つことが重要です。
傾聴力を磨いてコミュニケーションの質を高めよう
さまざまな価値観が渦巻く現代ビジネスシーンにおいて、相手への理解を深める傾聴力は必要性が高まっているスキルのひとつです。
傾聴力によって管理職が部下やチームメンバーに対して正しく理解を深めていけば、職場全体でさまざまなメリットが期待できます。
リーダーシップ力やメンバーとのコミュニケーションの質を向上させるためにも、普段から傾聴力を磨いておきましょう。