「スーパーシティ」という言葉をご存知でしょうか。これは最先端のIT技術を用いて暮らしを便利にした都市を意味します。
2020年5月にはこれを推進する法案「国家戦略特別区域法の一部を改正する法律案」が閣議決定されたことでより現実味を帯びてきました。
この記事ではスーパーシティ構想とはどのようなものかについて、具体的な事例や職業を挙げながら解説していきます。
スーパーシティ構想とは?
スーパーシティとは、主にAIやビッグデータなど最先端のIT技術を活用して人々により豊かな暮らしを提供することを目的とした都市を指します。「国家戦略特区法」の法案によりこのような最新技術を用いたまちづくりがより柔軟に行えるような規制緩和がされました。
内閣府地⽅創⽣推進事務局は2021年8月に「『スーパーシティ構想』について」を発表し、その中ではスーパーシティ構想を「住⺠が参画し、住⺠⽬線で、2030年頃に実現される未来社会を先⾏実現することを⽬指す」と定義づけています。またこの資料では、スーパーシティ構想の概要として3つの特徴を挙げています。
⽣活全般にまたがる複数分野の先端的サービスの提供
まず1つ目はAIやビッグデータなどを活用して行政手続き・移動・医療・教育など生活に関わるさまざまな分野の利便性を向上させることです。これまで、これらの生活に密接に関わる分野にはなかなか最先端の技術を積極的に取り入れる動きが起こせずにいました。この現状を打破すべく、規制が緩和された特区を作る動きとなったのです。
複数分野間でのデータ連携
次に2つ目は、複数分野間でのデータ連携です。これまでの生活におけるIT活用では医療は医療、教育は教育といった分野ごとに異なるプラットフォームやフォーマットを用いた運用が行われてきました。しかしスーパーシティ構想では、複数の分野でデータを連携させより効率的なサービスを実現させるために「データ連携基盤」と呼ばれる共通の基盤を作ることを目標としているのです。
⼤胆な規制改⾰
最後に3つ目は、大胆な規制改革を行うことです。最先端のサービスは安全性・安定性の面で不安を感じる市民も多く、それらを即座に取り入れることは難しいのが現状でした。しかし世界に目を向けると、スペインのバルセロナにおけるスマートパーキングの導入や、中国の杭州市における交通違反・渋滞対策へのAI活用など、多くの都市でこのような先端技術を活用している事例もあります。日本でもこれらの技術を実践することがスーパーシティ構想であるとして、規制改革を大胆に行うことが掲げられているのです。
社会への影響
それでは、スーパーシティが実現することで具体的に私たちの暮らしはどのように変化するのでしょうか。ここでは「自動走行」「手続き簡略化」「遠隔技術」の3点を例に挙げて解説していきます。
自動走行
近年は電気自動車の普及もあって、大きく注目されているのが自動走行です。自動走行によって街全体が渋滞や事故を回避するよう自動車が効率的に移動できるようになります。バスやタクシーが無人でも稼働できるようになれば移動の利便性は大幅に上昇するでしょう。また、自動走行ができるのは自動車だけではありません。小型のドローンが自動的に荷物の配送を行うことができれば、モノの物理的な移動コストも大きく削減できる可能性があるのです。
手続き簡略化
近年、行政手続きや日々の買い物における決済など、さまざまな手続きをITによって簡略化して利便性を向上させる動きがあります。ところが、2020年の推計では日本のキャッシュレス化比率は29%であると言われており、数値はあまり高くありません。スーパーシティ構想ではこれらの手続き簡略化をさらに浸透させることも目標としているのです。システムの安定性やセキュリティ面の問題をクリアにする必要があり課題も多いものの、これが実現すれば生活のさまざまな場面でスムーズな手続きが可能になります。
遠隔技術
2020年のコロナ禍以降、オンライン通話などを用いた遠隔診療が増えました。このような自宅にいながらさまざまなサービスを受けることを可能にする遠隔技術を導入するのもスーパーシティ構想が目指すものの一つです。診療を受ける機会の多い高齢者が自宅にいながら簡単に診察を受けられるようにすることで、医療を受ける側の負担が減るだけでなく、病院側も診療だけに集中することが可能になります。また遠隔技術は医療だけでなく、教育などの分野にも応用しようとされています。
企業の具体的な取り組み
一方で、スーパーシティ実現に向けては国や自治体だけでなく企業が大きな取り組みをしている場合もあります。ここでは、トヨタ自動車が進めているスーパーシティである「ウーブン・シティ」と、起業家のビル・ゲイツ氏が建築している「スマートシティ・ベルモント」を例に見ていきましょう。
ウーブン・シティは、静岡県裾野市のトヨタ自動車工場跡地に建設が開始されたスーパーシティです。70万平方メートルにも及ぶ敷地に、トヨタの関係者2000人が入居予定となっています。大きな特徴はモノやサービスを運びやすい交通網で、道路を「歩行者」「歩行者または低スピードのパーソナルモビリティ」「高スピードの車両」という3種類に分けることで効率的な移動ができるよう工夫されています。
一方でビル・ゲイツのスマートシティ・ベルモントは、もともと砂漠のような土地であったアリゾナ州のある一帯を買取り、一からインフラを整えるという方法で建設されています。あえてほぼ無人の土地を選ぶことでそこにある既存のものにとらわれず、最先端の技術を反映させることができると考えているのです。ここでは高速なネットワーク、自動運転、流通網を整えるとしており、約8万世帯の住居が建設予定です。
スーパーシティに関連する職業や働き方
最先端技術を用いて生活を豊かにするという夢のあるスーパーシティですが、実際にどのような職業がこの開発に携わっているのでしょうか。実はこれには、人々の生活に関わる多くの職業が含まれています。具体的に見ていきましょう。
移動・物流
これまで述べてきたように、自動運転技術などを用いて効率化が可能な移動・物流の分野はスーパーシティに大きな関わりがあります。これには自走する自動車・バス・配送ドローンに関連する仕事だけでなく、それらを一元的に提供するMaaSやカーシェアリングといった分野の事業にも関わってきます。
医療・介護
超高齢化社会となっている日本で特に重視すべきなのが、医療や介護の問題です。先述した遠隔医療技術だけでなく、IoT機器を用いて患者の状態を常に見守ることができたり、ウェアラブル端末による健康管理ができたりとハードウェア分野もスーパーシティ構想に関わってくるといえるでしょう。
エネルギー・環境
デジタル機器を多く用いるスーパーシティにおいて、エネルギーの安定供給は現在よりもさらに重要な問題となります。これらを太陽光や水力などで発電するクリーンエネルギー分野や、それらを効率的に伝達するエネルギー網の整備なども関連する分野となります。
防犯・防災
都市生活においては、さまざまな脅威から身を守る防犯・防災分野をどう便利にするかも重要な課題です。スーパーシティではこれらを解決するために災害のシミュレーションをもとに避難誘導を最適化・自動化したり、インフラを点検するロボットを開発運用したりといった形で技術応用が進められています。
人々の生活を豊かにするスーパーシティ
スーパーシティと呼ばれるような最先端技術を用いた都市は既に世界各国に存在し、運用されています。日本でも2025年度までに100地域をこのような都市に選定すると決定されており、今後もこれらの分野は成長産業になると予想されます。人々の生活を豊かにすることのできるスーパーシティに関連した働き方について、皆さんも考えてみてはいかがでしょうか。