近年、副業・複業についての議論が広がっており、多くの方々が自分のスキルを活用し、能力をさらに広げるために副業・複業の可能性を探っているようです。
また、副業・複業は製造業界の技術者や人材を雇用する企業にも影響を与えることがあるようです。
今回のレポートでは、製造業界の技術者と企業が副業・複業にどのように向き合っているかを調査しました。このレポートは、「オモシゴジャーナル」によるアンケート調査の結果をもとに構成されています。
第一部では、製造業の技術者が副業・複業にどのような期待を寄せているかを確認します。第二部では、企業が副業・複業にどのような取り組みをしているのかを確認します。
今回の調査により、新しい働き方や人材開発、企業経営の観点から、副業・複業の現状を把握し、技術者と経営層の間の認識の違いや共通点を明らかにすることで、製造業の未来について考えてみる新たな視点を探ります。
ものづくり技術者のための「複業/副業」意識調査
「技術者のための複業/副業意識調査」では、全国の製造業で働くソフトウェア、ネットワーク、電気、電子、機械の技術系職種、20歳から59歳までを対象に調査を行いました。
調査はインターネットを通じて、304人が回答を寄せてくれました。調査は2023年6月10日に実施されました。
関心と実行のギャップ
まず、技術者たちが「複業/副業」にどれだけの興味を持っているかを調査しました。その結果、「とても興味がある」と回答した人が12.2%、「興味がある」と回答した人が18.8%と、ある程度の関心が存在することがわかりました。
しかしながら、それにもかかわらず実際に「複業/副業」に取り組んでいる人はわずか3%でした。「関心があるがまだ取り組んでいない」と答えた人が36%、「現状では考えていない」と答えた人が62%と、関心と実際の行動には大きなギャップが存在することが明らかになりました。
技術者たちが副業に求めるものとその障壁
次に、「複業/副業」に期待する効果と、その取り組みに際して抱く障壁について調査しました。「収入増加」を期待している人が最も多く、69.4%となりました。「スキルアップ」が16.4%、「キャリア形成」が12.2%と続きます。
その一方で、「時間的な制約」を障壁と感じている人が32.0%と最も多く、次いで「現職との兼ね合い」が31.0%となりました。また、「スキルや経験の不足」を感じている人が19.9%、「法律や規制の理解」が障壁であると感じている人が8.1%と、様々な課題が存在することがわかりました。
これからの課題
この調査結果から、技術者たちは確かに「複業/副業」への関心を持っているものの、時間的制約や現職との調和、スキル不足や法規制への理解といった障壁により、なかなかその一歩を踏み出せていない現状が想像されます。
また、「スキルや経験の不足」や「法律や規制の理解」が障壁と感じている人からは、自身の専門性を超えた分野での「複業/副業」への不安が感じられます。これは、教育やトレーニング、そして業界のルールや規制についての情報提供が必要だという示唆を与えています。
これらの調査から、「複業/副業」に興味はあるがまだ取り組んでいない人が多いことが考えられます。このような方をサポートし、障壁を乗り越える解決策を提供することで、「複業/副業」の普及をさらに進めることができるのはないでしょうか。
製造業技術者の「複業/副業」推奨の実態調査
二つ目の調査として、製造業技術者の「複業/副業」推奨の実態について調査しました。
調査対象は30歳から69歳までの製造業に所属する経営者、役員、人事部、関連部署の方々で、全国310名から回答をいただきました。
企業の「複業/副業」推奨の現状
まず、自社が「複業/副業」を推奨しているか否かを問うたところ、「許可していない」という回答が37.7%と最も多く、次いで「特に推奨も否定もしていない」が27.7%、「推奨していない」が23.5%でした。「ある程度推奨している」は9.0%、「積極的に推奨している」はわずか1.9%となりました。
「複業/副業」を推奨していない理由
推奨していない理由としては、本業への影響、規則や規程による制約、情報漏洩の懸念、時間と健康管理の問題、労働条件や福利厚生の問題、企業文化の違いなど、多種多様な意見が寄せられました。
「複業/副業」推奨の将来的な可能性
次に、自社の技術者に対して「複業/副業」を推奨する可能性について調査したところ、「すでに積極的に推奨している」は3.2%、「今後、積極的に推奨する可能性がある」が11.3%、「推奨/許可しない」が31.6%、「推奨する予定はない/わからない」が53.9%という結果になりました。
技術者への「複業/副業」サポートの状況
さらに、技術者の複業/副業に対してどのようなサポートを提供しているか、または提供を考えているかの回答は、「サポートはない」が76.1%と大半を占めていました。これは、回答者が「複業/副業」を推奨していない企業が大半だったことからだと考えられます。
「複業/副業に関するガイドラインを作成している」が10.2%、「複業/副業の時間確保や業務調整の支援を行っている」が4.4%、「複業/副業で得た経験・スキルを活用するための研修や勉強会を開催している」が3.8%、「複業/副業の相談窓口を設けている」が2.9%、「複業/副業に関する研修やセミナーへの参加費を補助している」が2.6%と続きました。
技術者と経営層の間で見える「複業/副業」への視点のズレ
今回の調査結果からは、製造業の技術者と企業側との間で、「複業/副業」への認識について、興味深い相違点や共通点、そして理解のすれ違いが見られるように感じられます。
興味と実行のギャップ
技術者たちが「複業/副業」に「興味がある」または「とても興味がある」と感じているのは約31%でありながら、「すでに取り組んでいる」と回答した人はたったの3%にすぎず、この間にはギャップが広がっています。
一方、企業側では、「複業/副業」を「ある程度、推奨している」または「積極的に推奨している」と答えたのは約11%で、技術者たちの関心度と大きな差は見られません。
ただし、「推奨/許可しない」または「特に推奨も否定もしていない」と回答した人が約65%と大半を占めており、ここに技術者と企業側との視点の違いがあらわれています。
「複業/副業」の挑戦とその壁
「複業/副業」への挑戦にあたって感じる障壁や懸念について見てみると、技術者たちは「時間的な制約」と「現職との兼ね合い(業務量、業務内容の競合等)」を大きな壁と捉えています。
これは、「複業/副業」に否定的な企業側があげる「本業への影響、規則や規程による制約」などと一致する部分があり、共有の課題として扱うことが可能です。
この課題の解消が、「複業/副業」への理解と取り組みを進めるための重要な一歩となるのではないでしょうか。
求められるサポートと現状の認識
技術者たちが「複業/副業」への取り組みにあたり、期待する「スキルアップ」や「キャリア形成」の支援に対して、企業側からは具体的な支援策がほとんど示されていません。
具体的には、「複業/副業に関するガイドラインを作成している」などの支援は一部にとどまり、「サポートはない」と回答した企業が76.1%と多くを占めています。これもまた、技術者と企業間の理解のすれ違いを示しています。
「複業/副業」への理解と対応の進化が求められる
これらの結果から、「複業/副業」への企業の理解と対応が、現代の職場環境で必要とされていると考えることができます。
具体的には、技術者たちの関心や期待に対して、企業側がもつ懸念を解消しながら、「複業/副業」に対する制度整備やサポートを推進する必要があります。
これは、製造業の技術者たちが多様なキャリアを形成し、組織全体の生産性や創造性を向上させるための重要なステップとなることでしょう。
まとめ
この調査結果を「イノベーター理論」で解釈すると、「複業/副業」の導入と普及は製造業においてまだ初期段階にあると言えます。
すでに「複業/副業」に取り組んでいる技術者の3%は「イノベーター」に該当し、「関心はあるがまだ始めていない」36%の技術者は「アーリーアダプター」候補、そして現状では「複業/副業」を考えていない62%は「アーリーマジョリティ」「レイトマジョリティ」候補に該当すると考えることができます。
「アーリーアダプター」候補のうち実際に「複業/副業」に取り組む人がどれほど出てくるのかはまだわかりませんが、従業員側では約30%が「複業/副業」に興味があると回答しています。
しかしながら、複業/副業を推奨すると回答した企業側の割合は全体の約10.9%に過ぎません。従業員と企業側との間位には「複業/副業」に対するギャップが存在することが確認できます。
これらの結果から、「複業/副業」の普及と浸透には、企業側の理解と対応、そして制度整備やサポートの提供が必要となることが見えてきます。
それによって、「アーリーアダプター」候補の一部が実際に「複業/副業」に取り組み出すことで、いずれ「アーリーマジョリティ」から「アーリーアダプター」へと移行していくでしょう。その結果、「複業/副業」が社会に受け入れられ、普及が加速していくのではないでしょうか。
■調査概要(1)
- テーマ:ものづくり技術者のための「複業/副業」意識調査
- 調査の方法:インターネット調査
- 調査対象者の条件:全国の20-59歳の製造業でお勤めの技術系職種(ソフトウェア・ネットワーク、電気・電子・機械)の方
- 回答数:304名
- 調査期間:2023年6月10日
■調査概要(2)
- テーマ:製造業技術者の「複業/副業」推奨の実態調査
- 調査の方法:インターネット調査
- 調査対象者の条件:全国の30-69歳の製造業の経営者、役員、人事部、および関連部署の方々
- 回答数:310名
- 調査期間:2023年6月13日