ウェルビーイングという言葉、最近よく耳にするかもしれません。企業の経営者や人事担当者にとって、この言葉の意味を理解し、取り入れることが重要になっています。では、ウェルビーイングとは具体的に何なのでしょうか。
ウェルビーイングとは何か
ウェルビーイングは人々の心身の健康や幸福感を高める概念で、個人の生活の質を向上させるための重要な指標です。
定義と意味
ウェルビーイングは英語でwell-beingと表記され、幸福と訳されます。一時的な幸福を意味するhappinessとは異なり、持続する幸福感を指します。ウェルビーイングは、心理的、社会的、物質的な幸福感を含む、人々の生活の質を表す指標です。個人の健康状態、教育、雇用、所得、社会的関係など、多くの要因によって影響を受けます。身体、心、社会的に健康で、充実した生活を送る状態がウェルビーイングです。
構成要素
ウェルビーイングには、ポジティブ心理学に基づく「PERMA」指標や、ギャラップ社が定義した5つの要素(キャリア、社会、経済、心身の健康、地域社会とのつながり)などがあります。これらの要素が組み合わさることで、人々の幸福感や生活の質が形成されます。
PERMAモデル
ウェルビーイングを構築する要素としてポジティブ心理学の父と呼ばれるセリングマンがまとめた概念が「PERMA」モデルです。
- Positive emotion
ネガティブな感情もしくはネガティブな状況をポジティブに変えられる能力のことを指します。つまり、組織内で何か問題があった場合にポジティブに対応していくということです。 - Engagement
仕事に対するポジティブさ、集中できている様子を表しています。 - Relationship
関係性という意味を持つ英語で、文字通り組織内の関係性向上に関する要素です。 - Meaning and purpose
仕事の意義・目的を明確にすることです。 - Achievement
目標やノルマを成し遂げる向上心を表しています。
これらは、幸せを向上させるために必要な要素として挙げられています。
ウェルビーイングの歴史
ウェルビーイングの歴史は古く、古代ギリシャ時代から現代に至るまで、その概念と実践が進化してきました。
起源と発展
ウェルビーイングの歴史は多岐にわたります。アリストテレスの「幸福論」から始まり、20世紀に入ってからは心理学や医療の分野での研究が進みました。特に、マズローの「自己実現の欲求」やWHOの定義などが、現代のウェルビーイングの理解に大いに貢献しています。
ウェルビーイングの現代への影響
ウェルビーイングの概念は現代においても進化を続けており、企業や教育の現場など、さまざまな分野で取り入れられています。健康の促進や生活の質の向上を目指す動きが、世界中で広がっています。
なぜ今、ウェルビーイングが大事なのか?
ウェルビーイングが注目されるようになった背景には、どのようなことがあるのでしょうか。
価値観の変化と地球規模の課題
効率や利益、売り上げなどの経済指標を優先してきた結果、格差の拡大や地球環境の悪化、貧困などさまざまな問題が起きました。これらの課題は「モノ」の価値観では解決できず、成長を追い求めることに限界がきていると認識され、より良い社会をつくる方向へと変わろうとしています。
日本の働き方改革
日本では、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少やブラック企業の問題化などから、働き方の多様化が進んでいます。政府は一億総活躍社会の実現を掲げ、2019年から働き方改革関連法を施行しました。この法律は、多様な働き方を選択し、より良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。
新型コロナウイルス感染拡大の影響
新型コロナウイルス感染拡大によって価値観が変化し、リモートワークの普及や自分らしい働き方の再考が進みました。しかし、コミュニケーション不足やメンタルヘルスの問題も指摘されており、ウェルビーイングの重要性が再認識されています。
日本のビジネスシーンでのウェルビーイング
国連の関連機関が毎年発表する「世界幸福度ランキング」によると、日本は62位(2020年)でした。このランキングは、日本のビジネス界におけるウェルビーイングの重要性が認識され始めていることを示しています。
働き方改革とウェルビーイング
働き方改革とウェルビーイングは密接に関連しており、長時間労働の是正や労働環境の改善など、従業員の健康と幸福を重視した取り組みが進められています。企業は、これらの取り組みを通じて、生産性の向上とともに、従業員のロイヤリティや満足度の向上を目指しています。
健康経営とウェルビーイング
健康経営とは、企業が従業員の健康を支える経営手法で、ウェルビーイングと深く関連しています。企業は、従業員の健康を向上させるためのプログラムや支援を提供し、それによって生産性の向上や離職率の低下など、企業全体のパフォーマンス向上を実現しています。
ウェルビーイングを取り入れるメリット
ウェルビーイングの取り入れは企業にとって多岐にわたるメリットをもたらします。以下、詳しく解説します。
離職率低下、優秀な人材の確保
ウェルビーイングの取り組みは、従業員の満足度を高め、結果として離職率の低下に寄与します。また、ウェルビーイングに重点を置く企業は、優秀な人材の確保にも成功しているケースが多いです。
生産性の向上
主観的ウェルビーイングの高い人は、創造性が3倍、生産性が31%も高い傾向にあるとされています。ウェルビーイングを高める取り組みは、従業員の能力を最大限に引き出し、企業全体の生産性向上につながります。
SDGsとの連携
ウェルビーイングはSDGs(持続可能な開発目標)とも密接に関わっており、企業が社会的また経済的な問題解消に取り組む際の重要な要素となります。「貧困をなくそう」「ジェンダー平等を実現しよう」といった目標にはウェルビーイングの実現に必要な要素が多数含まれており、企業価値の向上にも寄与します。
ウェルビーイングを企業が取り入れるための具体策
ウェルビーイングを企業で取り入れるためには、心理的健康のサポートやワークライフバランスの改善など、多岐にわたる具体的な取り組みが必要です。
心理的健康のサポート
心理的健康のサポートはウェルビーイングの重要な側面で、企業はメンタルヘルス対策やストレスチェック制度などを通じて、従業員の心の健康を支えています。これによって、従業員の満足度や生産性が向上し、企業全体の成長にも寄与しています。
ワークライフバランスの改善
ワークライフバランスの改善は、従業員の生活と仕事の調和を図るための重要な取り組みです。フレックスタイム制度やテレワーク制度などの導入によって、従業員はより柔軟な働き方が可能となり、その結果、仕事の効率や満足度が向上します。企業にとっても、これらの取り組みは従業員のロイヤリティ向上や生産性の向上につながります。
まとめ
ウェルビーイングは企業の成長に欠かせない要素であり、今から取り組むべき課題です。経営者やリーダーにとって、社員のウェルビーイング向上は今後の評価指標ともなるでしょう。
この概念を理解し、具体的な取り組みを進めることで、企業はより健全な成長を遂げ、社員もより充実した生活を送ることができるのです。