半導体不足などの背景もあり、先行き不安な状態が続く製造業において、「打開策の一つになるかもしれない」と注目を集めているのが”製造業DX”の取り組みです。
比較的新しいキーワードなので、見聞きしたことがない方も多いでしょう。今回は、そんな製造業DXとは何か、その概要を説明すると共に、製造業DXによって起こる変化や課題についても解説していきます。
製造業DXとは?
製造業DXというキーワードを知るためには、まず「DX」という単語について理解しておく必要があります。DX(デジタルトランスフォーメーション)というのは、「ビッグデータや情報技術を社会全体で効果的に利用することで、あらゆる物事を良い形へと変化させる」という考え方です。
非常に広義の言葉ですが、ビジネスにおいては、デジタル技術を用いて事業の変革や業務効率の改善をする意味合いで用いられます。
DXについて詳しくはこちらの記事をチェックしてください!
製造業DXはこのDXの考え方を応用しており、基本的には「アナログな作業をデジタルに置き換えて業務を効率化することを」重視しつつ、最終的には製造業によって生み出される製品・サービスの利用者の生活をより良い方向へと変えていくのが目的になります。
ここで注意すべきなのは、様々な業務をデジタルへ移行すること自体が目的ではないところです。あくまで最終的な目標は「利用者の生活をより良くする」という点にあるため、仮に製造業DXの取り組みによって全ての業務をデジタル化できたとしても、人々の生活が良くなっていなければ、製造業DXは達成できていないと言えます。
製造業DXが注目されている理由
現在製造業DXが注目されている背景のひとつとして、コロナ禍の影響により、製造業が以前と比べて不安定な存在になっている事情があります。
経済産業省が発表した「2022年版ものづくり白書」のデータによれば、2020年ごろに低迷していた製造業の業況が、2020年下半期から2021年にかけて回復していたものの、2022年には一部の製造業で業況が減少しています。
同白書では今後回復する見通しが立っていますが、コロナ禍による突然の業績悪化が起こったことなどを踏まえ、不足の事態に備えてさらに事業を安定化させることを目的に、製造業DXへの関心も高まったのです。
製造業DXで起こる変化
製造業DXがこのまま浸透していけば、製造業に関わらず、製品やサービスの利用者にも影響を与えるような変化が起こる可能性が高いです。具体的にどのような変化が起こるのか、ここからは考えられる3つの出来事について紹介します。
情報の「見える化」が進む
製造業DXの恩恵として、情報の「見える化」を実現できる企業が大幅に増加することが考えられます。IoTなどの技術を活用し、製造における全工程の情報をデジタルデータとして管理しておくことで、アナログな資料では間に合わないような問題への対処や、発生した問題に対する迅速なフィードバックおよび改善への取り組みを実施することができます。もちろん、データを分析することにより、繁忙期や閑散期など時期に合わせて製造工程の最適化を行ったり、今後の販売動向を予測したりと、情報の「見える化」は企業の業績向上にも非常に良い影響を与えるでしょう。
人材不足の解消
製造業のDXにより、仕分け作業など人が行っていたような業務を機械やAIが担う場面が増えていきます。単調な業務などはほぼ全て機械に任せられるようになるため、必要となる人員が大幅に減り、人材不足の問題を解消することが可能です。単に人材不足が解消するだけでなく、全工程に割かれていた労力を、人にしか出来ないコアな業務に集中させられるようにもなり、結果として事業全体の変革・改善を生むことにも繋がります。
製品・サービスのコストダウン
製造業DXが成功すれば、それまで製品やサービスを生み出すまでに生まれていたコストを削減することが可能となります。企業の損失を軽減することはもちろんのこと、より安い価格で製品・サービスを利用者に提供することによって、製造業DXの「利用者の生活をより良くする」という目的も達成することができます。
製造業DXの課題
製造業DXには多くのメリットがある一方、推進していくにあたって看過できない課題があるのも事実です。具体的にどのような課題があるのか、ここでは特に問題視されている2つの課題について解説していきます。
製造業DX推進に必要な人材の不足
製造業DXを推進していく上で、必要不可欠なのが「DXの実現に貢献できる人材」です。しかしながら、国内には製造業DXを進められる人材の確保が非常に困難となっており、専門人材を育成しようにも、その育成を担う人材の確保すらも難しい状況にあります。製造業DXを実現するには、さらに製造業への理解がある程度必要になる点も、人材不足に拍車をかけています。
属人的なノウハウの共有
製造業DXはアナログ主体の企業でも重要視されているものの、そういった企業の場合、ノウハウの属人化が課題となることが多いです。DXによって業務をデジタル管理したいと思っても、アナログ主体の現場では一部の優秀な人材を中心に業務を行っていることが多く、「その人のノウハウがないと現場が回らない」という状況が出来上がっていることもあります。人間のノウハウというのは中々デジタルなデータに変換するのは難しいため、そういった属人的なノウハウをどう共有していくかが、デジタル化を進めていく上で大きな課題となっているのです。
製造業DXを進める3つのステップ
製造業DXを効果的に進めていくためには、段階的なプロセスを経て徐々にDXを実現していくのがポイントです。どのように進めていくかは場合によって異なりますが、ここでは一例として製造業DXを進めていくステップを3つに分けて解説します。
ステップ1:人材の確保・データの収集
製造業DXの初期段階として、DXの実現を進めていくための人材の確保が必須です。また、それと合わせてDXに必要となる現場の状況や業務の内容、達成したい目標など、様々な情報をデータとして収集・分析していきます。この時点で「利用者が求めているものは何か」が理解できていれば、より効果的なDXの実現が可能となります。
ステップ2:DXによる業務の効率化を進める
人材の確保とデータの収集が完了すれば、その後はDXの取り組みを実行に移します。ここで大切なのが、いきなり大規模な変革を生み出そうとしないことです。突然大きな変更が予告されても、現場がパニックになってしまう恐れがある上、失敗してしまった場合の損失も大きくなってしまいます。リスクを最小限に抑えるためにも、まずはすぐに効率化できるような小さな事柄からDXを進めていくことが重要になります。
ステップ3:変化するニーズに対応していく
製造業DXというのは、アナログな業務を効率化することが目的ではなく、それによって利用者のニーズに応えていくことが目的と言えます。製造業において、常に同じような製品・サービスが求められているとは限りません。特に現代は時代の移り変わりが激しく、製品・サービスの需要も次々に変化しています。製造業DXを実現するためには、そんな「変化するニーズ」に対し、それに合わせて価値を作り出していくことが「利用者の生活をより良くする」という目標達成に繋がっていくのです。
まとめ
コロナ禍などの時代背景により、製造業DXは国内外問わず高い注目を集めています。しかし、実際には製造業DXを進めていくだけの人材が不足していたり、属人的なノウハウの共有に苦労したりと、上手く取り組めずにいる企業も少なくありません。
そういった状況を打開していくためにも、今後は製造業DXをはじめとした「DX」に深い理解を持つ人材の需要がさらに高まっていくでしょう。
出典:
2022年版ものづくり白書 https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2022/pdf/gaiyo.pdf