新しい働き方としてテレワークやリモートワークが注目を集めています。
しかし、興味を示す企業は多いものの、それほど導入は広まっていないようにも見えます。これから先、日本でテレワークは、広く普及するのでしょうか。
その動向を知るために、海外でのテレワークやリモートワークの普及率について調べてみました。
テレワークやリモートワークを導入する意味
海外での普及状況を知る前に、テレワークやリモートワークを導入する意味は何かを知っておくことが大切です。
テレワークやリモートワークを導入すれば、会社のオフィスに労働者が集まる必要性が低下するため、オフィスの維持費用が少なくなります。
労働者もオフィスまで通勤する必要がなくなるため、時間的余裕や通勤での疲労が軽減します。
このように、テレワークやリモートワークは、会社と労働者双方にとって多くのメリットがある働き方と言えます。
テレワーク
テレワークとは、一般社団法人日本テレワーク協会によれば「情報通信技術(ICT = Information and Communication Technology)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のこと」を指します。
テレワークとは、情報通信技術(ICT = Information and Communication Technology)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことです。テレワークは、働く場所によって、自宅利用型テレワーク(在宅勤務)、移動中や移動の合間に行うモバイルワーク、サテライトオフィスやコワーキングスペースといった施設利用型テレワークのほか、リゾートで行うワーケーションも含めてテレワークと総称しています。
一般社団法人日本テレワーク協会
リモートワーク
一方でリモートワークは、その言葉の意味は定義されていません。
しかし、その意味するものはテレワークと非常によく似ており、一般的には同じ意味として使われています。
日本では、官公庁や大企業などの業務の場合にはテレワークを、それ以外のケースではリモートワークを使うことが多いようです。
アメリカでの普及率は85%
2015年に「WorldatWork」の調査した統計において、アメリカにある企業のテレワークの普及率は約85%であると発表されました。
そのうちフルタイムでテレワークに従事する人は、就業人口全体の約34%です。
なぜこれほどまでにテレワークが普及しているのでしょうか。それには2つの理由が上げられます。
テレワーク強化法
ひとつはテレワーク強化法と呼ばれる法律の存在です。2000年以降のアメリカでは、行政費用と環境への配慮から、可能な限りテレワークを推進できるように方針を定めることが各行政機関に対して義務付けられています。
その流れの中で登場したのがテレワーク強化法です。この法律によって連邦政府職員もテレワークで働く資格が与えられました。
日本とは異なる就業形態
アメリカでは「メンバーシップ型雇用」ではなく、「ジョブ型雇用」が多く用いられています。「ジョブ型雇用」は仕事や労働時間の範囲が限られるため、仕事の量に合わせて人員を雇い入れる雇用形態です。
仕事の達成が評価と直結しやすいため、自律的に仕事を進めるテレワークとの相性がよいとされています。
また、アメリカでは一部のホワイトカラーと呼ばれる頭脳労働者に対して、労働法制における規制が適用されません。
労働規制を緩和する「white collar exemption(ホワイトカラーエクゼンプション)」と呼ばれる制度があるからです。
この制度が適用される者は、労働時間の管理や仕事の裁量を自分でするため、自由に仕事がしやすいテレワークが好まれます。
なお、アメリカと労働法制がよく似ているといわれるカナダも、テレワークの普及率が高い国です。カナダ統計局の調査では、テレワークを導入している企業は全体の22%です。
全就労者の約19%がテレワークで働いています。
ヨーロッパでのテレワークの普及率
ヨーロッパ各国のテレワーク普及率は、それぞれの国の事情によって大きく異なります。
全体的にヨーロッパではテレワークの普及率があまり高くありません。
なぜなら、労働法制の整備が進んでおり、労働時間や就労状況を管理する観点から、テレワークの導入に積極的でない国が少なくないからです。
そのため、欧州連合(EU)のテレワーク普及率平均は13.5%となっています。
以前からテレワーク普及率が高いイギリス
ヨーロッパのなかにありながら、イギリスはテレワークの普及率が高い国のひとつです。
「European Company Survey 2010」のデータを参考にすると、イギリスにおけるテレワーク普及率は約38.2%です。
なぜイギリスではテレワークの普及率が高いのでしょうか。
それはイギリスが元来から労働時間が短いことが関係しているからだと言われています。
イギリスでは柔軟な労働時間制度が広く使われており、仕事の時間管理を自分でする慣習が根付いていました。
そのため、テレワークの普及率が高くなっています。続いて欧州連合(EU)では北欧国家の普及率の高さが目立ちます。
スウェーデンが34.7%、アイスランドが31.5%、フィンランドが30.3%です。
積極的にテレワークを推進する欧州連合(EU)
一方で、欧州連合(EU)のなかで最もテレワーク普及率が低いのは、0.6%のルーマニアです。
しかし、2020年度のコロナウィルスの流行以降、テレワークの普及を欧州連合(EU)は積極的に進めています。
例えば、ドイツでは「European Company Survey 2010」のデータでは約22%のテレワーク普及率でした。
ですが、株式会社野村総合研究所が2020年7月に発表した「Withコロナ期における生活実態国際比較調査」では、ドイツ全体の労働者のおよそ25%である800万人がテレワークで働いています。
くわえて、労働者が在宅勤務を求められる法律もドイツでは整備されました。
アジアのテレワーク事情
アジアでは長時間労働の職場環境が多く、テレワークをはじめとした柔軟な働き方が社会に浸透するまで、長い時間がかかりました。
そのため、アジアは全体的にテレワークの普及率が高くありません。
総務省が2016年6月に発表した「テレワーク推進に向けた政府の取組について」を参考にすると、韓国の企業がテレワークを導入している率は1.0%未満です。
また、アジアの中ではテレワークの導入がすすんでいると言われるシンガポールでも普及率は5.4%でした。
ですが、アジア圏もコロナの流行によりテレワークの導入は一気に加速しています。
前述の「Withコロナ期における生活実態国際比較調査」を参考にすると、2020年における韓国のテレワークの利用率は、全労働者のおよそ37%です。
なおこのデータでは中国の都市部のテレワーク普及率が飛び抜けています。
労働者の約75%がテレワークを利用しており、中国都市部におけるデジタル化への進歩が伺えます。
まとめ
2021年5月14日、帝国データバンクから『新型コロナウイルス感染症に対する企業の意識調査(2021年4月)』の結果が発表されました。
調査期間は2021年4月16日~30日、全国2万3,707社を対象とし、1万1,003社(回答率46.4%)が回答しています。
感染拡大を抑制するため引き続き政府からテレワークの推進や、出張の必要性を慎重に検討することが求められているなか、テレワークの実施時間は業務時間全体の1割にとどまる結果となりました。
海外をみても、地域や業種によりテレワークの普及状況は異なります。
社内コミュニケーションや人材育成など、テレワークによる課題も出てきていますが、デジタル化の促進により、テレワークのメリットを感じる場面も増えています。
どちらが良い悪いの議論ではなく、アフターコロナの社会では、オフィスとテレワークの良い部分を取り入れた働きやすい環境になることを期待したいと思います。