コーチングは双方向のコミュニケーションによって、対象者の問題点を自分で自覚させ、成長を促す方法のひとつです。コーチングのアイデアはアメリカで生まれた後、理論化されて世界中に拡がっていきました。
ビジネスの世界でもコーチングの考え方は取り入れられ、上司と部下の関係改善のために高い効果を上げています。
ここからはコーチングの資格の種類やメリットについて、確認していきましょう。
コーチングとは?
コーチングとは相手の話を聞きながら質問を投げかけることで、相手が自分で気づいていないような深層にある問題を引き出す手法のことです。
コーチングのビジネスにおける使い方とは、対象者の自主性に働きかける能力を引き出しながら、目標に向けてモチベーションを高めていくコミュニケーションのことをいいます。
企業の人材育成で使われる場合の呼び名は、コーチング型マネジメントです。コーチングの大きな特徴には、対象者の自発性を促していくことがあります。
行動を強制するのではなく、対話によって対象者のポテンシャルを発揮できる状況に導いていくことが、コーチングの特徴と言えるのです。
コーチングが依拠している考え方には、『人間の可能性は無限にあること』『課題に対する答えが必ず相手の側に存在すること』『コーチがパートナーとして徹していること』という3つがあります。
この3つの考えに基づいて、『自分自身で答えを導き出す能力』『主体的に物事に取り組む姿勢』『新しい価値観にたどり着こうとする前向きな気持ち』、これら身につけることがコーチングの目標と言えるでしょう。
コーチングの歴史
コーチングという考え方がスキルとして定着した始まりは、1959年にハーバード大学助教授であったマイルズ・メイス(Myles Mace)氏の著書『The Growth and Development of Executives』の中の一つのアイデアとして登場しました。
マイルズの考えはそれ以降、多くの本に引用されて広まっていきました。1990年代には、アメリカでCoach Universityなどのコーチ育成機関が相次いで生まれていき、その後には非営利団体International Coaching Federation(国際コーチング連盟)が設立されていったのです。
アメリカで生れたコーチングの考えは理論化され、世界中に拡散していきました。
ティーチングやカウンセリングとの違い
コーチングとティーチングやカウンセリングには、多くの違いがあります。ティーチングには教える側と教わる側に上下関係があり、指導を通して答えを与えていくという形が一般的です。
それに対してコーチングは、双方向的なコミュニケーションによって高めあっていきます。
カウンセリングは双方向のコミュニケーションを取りながら、不安や悩みを解消することが目的ですが、コーチングは双方向のコミュニケーションを取りながら、自己成長を促していくことが目的になります。
コーチングのメリットとデメリット
コーチングにはメリットとデメリットがあります。メリットとデメリットを比較することによって、コーチングを取り入れる意味を改めて確認していきましょう。
コーチングのメリット
まずはコーチングを導入することのメリットを見ていきましょう。コーチングを学び資格を取得することでビジネスにも活用できます。
行動変容を促す
コーチングには対象者の行動を変容させる効果が期待できます。
なぜ行動を変えることができるかというと、コーチングでは相手の自主性を重視しながら目標達成のために改善を繰り返すので、自己成長が促されるため行動変容が起こるのです。
たとえ目標が達成できなくても、自分の失敗を見つめ直して改善点を見つけられるので、挑戦することが習慣づけられ自信につながります。
上司と部下の信頼関係の構築
上司と部下の関係を良くすることも、コーチングのメリットの一つに数えられます。仕事上の上司部下の関係は基本的に縦方向の関係になりますが、コーチングを取り入れれば対等な関係を構築することができるので、普段の業務だけでは見えない互いの考え方を把握することができるでしょう。
互いに対話する機会が増えることで、信頼関係を築きやすくするのです。信頼関係が再構築できれば、仕事の能率が上がるなど目に見える効果が期待できます。
社内コミュニケーションの活性化
コーチングは一方通行ではなく双方向のコミュニケーションによって成り立つものなので、通常の業務の時にもコミュニケーションが活性化されるなどの効果が期待できるでしょう。
コミュニケーションが活発になることによって、組織全体の生産性が向上していくことにもつながっていくのです。
コーチングのデメリット
次にコーチングを導入することのデメリットも見ていきましょう。デメリットを把握することも実践に役立てるために必要になってくるのです。
コーチの能力によって効果が変わる
コーチングの多くの行程は対人関係の場で行われるので、コーチの資質がコーチングの成功や失敗に大きく関わってきます。
相手の自主性を損なったり、対等な関係を築けなかった場合はコーチングの効果が現れないことがあるでしょう。
ですからコーチとなる人は必要なスキルや心構えを、あらかじめ習得しておく必要があります。
一対一で行う
一度に多くの対象者に影響を与えることができない点も、コーチングのデメリットとして数えられるでしょう。
コーチングでは一度に多くの対象者へと働きかけるような術がありません。
多くの人間にアプローチしようと思えば、それだけ時間と労力が必要になっていくでしょう。
短期間では効果が見えない
コーチングは長い時間をかけなければ効果が目に見えてあらわれないという特徴があります。
コーチングには対象者が問題を自主的に気づかなければ効果が上がらないという性質があるからです。
継続的に取り組んでいくことが必要になるので、短期間での人材育成には向かない手法だと言えます。
コーチングを上手く行うためのポイント
方法論に介入していくティーチングとは違い、コーチングは自発的に取り組んでいる様子を見守る点が特徴です。
本人の意思を尊重する
「どのようなクライアントを想定しているのか」「コストはどのくらいを見込んでいるのか」など、経験者ならではの視点を持って質問することで、指導される側に新たな視点や気づきを与え、当初のプランを見直すきっかけを与えることがコーチングのポイントです。
すぐに答えや考えを示すのではなく、じっくり根気強く相手を見守り意思を尊重する姿勢はコーチングをしていく上では欠かせません。
相手を観察する
コーチングを行いたいと考えるのであればまず、時間的あるいは作業的な余裕が指導する側、指導される側の双方にあるかどうかをまず判断する必要があります。
コーチングに必要なのは、指導される側が何に困っているかという点やモチベーションの低下、逆に混乱している状況などを見極め、修正できるように導く能力です。
観察眼とも言える能力ですが、過度な介入はコーチングの目指す自主性の尊重、という目的に反することになるため、相手の言葉に耳を傾け、あくまで必要最小限の介入に留める必要があります。
相手の話を聞く
その最低限を見極める力と、少しくらいやきもきしたくらいでは安易に介入しない忍耐力が指導する側に求められます。
ミスに対しても、自己反省を促して指導される側自らが気づき、修正するよう導く必要があります。指導する側が望むようなアプローチでなかったとしても、強い言葉で否定することは避けたほうがいいでしょう。
時間をかけてサポートする
コーチングは、本人の意見を尊重し、自発的に考え取り組むための力を育むことを目的としています。
そのため、一度指導が終わったからと手綱を離すのではなく、折に触れてきちんと自分で考え、適切なアプローチで取り組めているかどうかをフィードバックすることが重要です。
こうした長期にわたるコミュニケーションがコーチングのポイントです。
コーチングの資格の種類と勉強法
コーチングの資格を取得するためには、独学かあるいは何らかの資格を取るためにスクールに入るという方法があります。
スクールに通った場合は対面授業だけでなく、オンラインなど自分の状況に合わせた様々なスタイルの中から、学習方法を選ぶことができるでしょう。
どのような方法でも知識を得ることはできますが、コーチングのプロからフィードバックを直接得られる対面トレーニングが一番速く学ぶことができます。
ここではコーチングの主要な資格について確認していきましょう。
国際コーチ連盟(ICF)認定コーチ資格
この資格を認定しているのは国際連盟によってですが、同連盟には世界140の国に31000人以上の会員が存在します。
国際コーチ連盟が認定している資格は、ICF認定資格アソシエート認定コーチ(ACC)、ICF認定資格プロフェッショナル認定コーチ(PCC)、ICF認定資格マスター認定コーチ(MCC)の3種類です。
参考
ICF ジャパン
一般財団法人生涯学習開発財団認定コーチ資格(認定コーチ)
この資格はコーチングの初心者のために設けられており、通称認定コーチと呼ばれています。
発行団体は株式会社コーチ・エィが運営しているコーチ・エィアカデミアです。コーチ・エィアカデミアは1999年に文部科学省が管理する、一般財団法人生涯学習開発財団の認可を受けたことで知られています。
認定コーチとして認められるためには、団体が指定する過程を履修した上で、自身も3ヶ月以上の期間コーチングを受けなくてはなりません。
コーチングの実施経験も必要で、最低5名以上のクライアントに対する経験が求められます。
日本コーチ連盟認定コーチ
この資格は一般社団法人日本コーチ連盟が認定しています。
この資格を受験するためには、同社団法人が認定する試験に合格することと、日本コーチ連盟コーチアカデミー専科心理専修プログラム初級コースを修了していることが条件になっています。
まとめ
コーチングは対象者とコーチが向き合いながら、並行的に問題に取り組んでいくという特徴があります。
その点はカウンセリングのやり方と似ていますが、カウンセリングが問題の解消を目的としていることに対して、コーチングは対象者に問題を自覚させ、自力で解決させることを目的にしている点が違います。
コーチングの勉強の仕方としては独学の他に、スクールに通うことで資格に必要な知識を得ていくというやり方があります。
スクールには対面授業だけでなくオンライン授業も用意されていますが、プロのコーチのフィードバックを直接受けられる対面授業が、一番確実に知識を得ることができるでしょう。