これまでの企業のブランディング戦略といえば、顧客に提供する製品やサービスがどれほど生活を豊かにするのか、その機能性を効果的にアピールしようというものでした。
しかし社会的な課題の解決に世界の目が向かうなかで、企業は社会的な視点でその存在意義(パーパス・ドリブン)を明らかにする必要性が生じてきています。
パーパス・ドリブンとは
企業が営業活動を推進していくうえで、自社のブランディングは不可欠な要素です。
社会的な認知度を高め、イメージをアップさせることがそのまま利益に直結するため、経営上の取り組みとしては最も高い課題の一つに位置付けられるものです。
そしてブランディングといえば、商品やサービスがいかに消費者に有益であるか、その価値をアピールする点に比重が置かれるものでした。
しかし、新型コロナの地球規模での感染拡大を経て、グローバルなスケールで社会的な課題に関心が強く向けられるようになったことで、企業が提供する価値への見方にも変化が生じてきました。
すなわち企業は商品やサービスの価値をアピールするだけではなく、企業活動が何のために行われるのか、その存在意義を明確にすることが今やブランディング戦略には不可欠な要素となりつつあるのです。
こうしたなか、注目されてきたのがパーパス・ドリブンという考え方です。
パーパスとは、理由とか目的という意味で、企業の存在理由を示す言葉です。ドリブンとはdriveの過去分詞形「driven」のことで、そこに導かれた、というような意味があります。
パーパス・ドリブンとはつまり、その企業が何を目的にして事業を行い、商品やサービスを生むのか、その社会的な意義をも含めて、存在理由を示すということです。
パーパス・ドリブンが重要視されている社会背景
パーパス・ドリブンが重要視されてきた社会背景の一つとして、世界的なコロナの感染拡大によって、これまで潜在していた社会的な課題が一気に表に出てきたということが挙げられます。
環境問題や人種問題、LGBTの問題など、国境を越えて取り組んでいかなくてはならない課題の解決に向け、企業としても取り組んでいくべきだという考え方が広がってきました。
さらにSDGsの理念となる「持続可能性」は世界的に共有される課題となっており、企業活動にも主体的な取り組みが求められています。
企業はもはや商品やサービスが与えるベネフィットだけをアピールするのではなく、社会的な課題に対して、企業としてどう対処していくのか、その姿勢を示すことを求められるようになりました。
単に商品やサービスを売るだけでは消費者の共感を得ることはできない時代です。なぜこの商品やサービスを提供するのか、説得力のある内容のパーパス・ドリブンが不可欠になってきます。
パーパスの本質は、企業も消費者と同じ共同体の中に参加する一員であり、社会規範に基づいた他者貢献が欠かせないことを自覚するものです。
社会的に共有される課題に対し、どう関わり、具体的な行動をとっていくかというコンセプトの確立はブランディングの根幹を占める課題となってきています。
SNSをはじめ、各種の情報ネットワークが発達したことで、市場の反応はリアルタイムに拡散されるようになりました。
企業のパーパス・ドリブンに共感が得られれば、その企業ブランドは世界的に拡散されるメリットを感じることができます。
その逆に、見せかけのパーパス・ドリブンは、企業価値を一瞬にして落としてしまう怖さもあるわけです。
なぜ企業にパーパス・ドリブンが必要なのか
最近では、「ESG」という言葉がよく聞かれるようになりました。これは「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」の頭文字を取ったもので、社会問題を解決するうえでキーワードとなる言葉です。
この課題に取り組む企業へは投資家からも熱い眼差しが注がれており、ESG投資は一つのムーブメントになっています。
このESG投資は一例にすぎませんが、ビジネスの先行きが見通しきれない今、社会的な問題に積極的に取り組む企業への評価は次第に高くなりつつあります。
特にミレニアル世代と呼ばれる若い世代は、社会問題に関心が深く、企業が社会問題にどう関わっているかで買うか買わないかを決めるなど、購買行動にも反映される傾向があります。
そういった意味でもパーパス・ドリブンは非常に重要な視点となるのです。パーパス・ドリブンが重要なのは消費者へのアピールだけではありません。企業自体が存続していくための重要なファクターともいえるのです。
今後就職を考える若い世代は、社会問題への関心が高く企業選びの軸としてパーパス・ドリブンへの共感を挙げることが考えられます。社会に対してどのような貢献をしているかが優秀な人材を集めるためのカギとなる一例です。
また、企業で働く従業員のモチベーション向上にもパーパス・ドリブンは寄与します。働いている場所が特定の社会問題に取り組んでいることで、就労しながら社会参加しているという充実感がやる気を起こさせ、企業の業績アップにつながることも期待できます。
支持されるパーパスの共通点
消費者の共感を得るパーパスには、共通点が見られます。
社会に対する明確な価値観が提示できており、自社の製品やサービスを提供することで、その価値感を実現できていること、そしてそれが誰にとってもわかりやすい形で実現しており、なおかつ共感を得ているという点です。
ポイントは、単に社会問題への取り組みを表明するのではなく、取り組もうとする問題が自社の製品やサービスと関連していなくてはならないという観点です。
パーパスを具体化するにあたって必要なことは、自社の商品やサービスがどのようなものかを冷静に捉え、社会の中でどう価値を持たせるのかを判断することです。
優先すべきは自社の独自性を明確にすること。オリジナリティががなくては市場にアピールすることができません。
ここまで見てきたように、今後企業が設定するブランディングには、商品やサービスが消費者に提供するベネフィットだけでなく、社会とどう向き合い、問題を解決するうえで何ができるのかを盛り込む必要があります。
共同体の一員として社会の中で生きるというスタンスを示すことが、共感を得られる企業の在り方だといえそうです。
パーバス・ドリブンがブランディングのカギを握る
これからの企業ブランディングは、単に製品やサービスを売るということだけに焦点を当てるだけでは足りません。
社会の中で自社の製品やサービスがどんな意義を持つのか、再度熟考してその価値を明らかにする必要があります。
経営視点に社会的観点を取り入れたパーパス・ドリブンが今後の事業展開のカギを握るといえるでしょう。