2020年10月、日本政府は2050年までに温室効果ガス全体の排出量をゼロにするカーボンニュートラルを宣言しました。
この目標を達成するには、まず2030年に温室効果ガス全体の排出量を46%削減する必要があります。そこで重要になるのが、グリーンエコノミーと呼ばれる環境に配慮した新しい経済の導入です。
このコラムでは、2030年にむけて動き始めているグリーンエコノミーの概要と、政府が発表したグリーン成長戦略による社会や業界への影響と企業の取り組みを解説しながら、2030年に向けて成長が期待できる職業や働き方などを紹介します。
グリーンエコノミーとは?カーボンニュートラルとの関係性
政府による「2050年カーボンニュートラル宣言」によって注目度が高まったグリーンエコノミーですが、その実態については理解が進んでいないという現状もあります。
そこで、ここではグリーンエコノミーの意味やカーボンニュートラルとの関係などをわかりやすく解説します。
グリーンエコノミーとは
グリーンエコノミーは「経済発展と環境や資源の持続可能な社会を実現する」ために生まれた経済概念です。経済発展を推進しながら持続可能な環境を維持していくためには、地球環境になるべく負荷をかけない社会の構築が必要になります。
温暖化の進行や資源の無駄遣いを放置していると、地球環境が破壊され人間活動も破綻しかねないからです。そのため、グリーンエコノミーでは20世紀型の環境破壊・資源収奪型の経済概念を改め、資源の浪費をやめて再生資源エネルギーの割合を増やし、地球環境や自然との共生を考えた経済成長を目指しています。
グリーンエコノミーとカーボンニュートラルとの関係
グリーンエコノミーはカーボンニュートラルと密接に関係しています。
たとえば、カーボンニュートラルを実現するには、温室効果ガス全体の排出量から森林の植林や適切な管理などによって得られる吸収量を差し引いたうえで、排出量の合計を実質的にゼロにする必要があります。
こういった取り組みは、政府による法律の制定や国民の意識の高まりだけでは実現できません。持続可能な林業によってはじめて可能になります。そのため、林業にグリーンエコノミーの概念を導入することで、その実現とともに成長産業に発展させることが可能になると考えられています。
この他にも、カーボンニュートラルに関係するさまざまな業界がグリーンエコノミーへの転換を進めています。温暖化対策には経済を衰退させるネガティブなイメージが先行しがちですが、グリーンエコノミーは経済成長に不可欠な要素のひとつとして定着しつつあるのです。
グリーンエコノミーが及ぼす社会や業界への影響とは
グリーンエコノミーの有用性が広く認知されることによって、社会や多くの業界にポジティブな影響を及ぼしています。この項目では、グリーンエコノミーが社会や業界に及ぼしている影響をわかりやすく解説します。
グリーン成長戦略
「2050年カーボンニュートラル宣言」を受けて、政府は2020年12月にカーボンニュートラル実現のために必要な産業政策「グリーン成長戦略」を発表しました。
その中では、成長が期待される14分野の産業に対して高い目標を設定し、予算・税金・金融・規制改革・国際連携などについて、あらゆる政策を総動員する姿勢を明確にしています。そのうえで、グリーンエコノミーに大胆な投資を行い、政府の役割として「技術革新を起こす意欲のある企業」の挑戦を積極的に支援することを表明しています。
グリーン成長戦略の核となるのは、カーボンニュートラルを実現するためのエネルギー戦略です。そのために大前提となるのは脱炭素化であるため、グリーン成長戦略では再生可能エネルギーの増強を掲げています。
また、EV(電気自動車)や蓄電池の普及、グリーンエコノミーへの投資を促すための促進税制なども重要な戦略として示されています。
グリーンエコノミーが社会に及ぼす影響
グリーン成長戦略が具体化する過程では、社会全体にも大きな影響を及ぼすことが考えられます。
国民にもグリーンエコノミーに対する一定の知識が要求されたり、エネルギー政策に対する賛否の決断が迫られるかもしれません。
また、グリーンエコノミーが経済の主役に躍り出ることで、この分野が花形産業に発展する可能性も期待できます。
グリーンエコノミーが企業に及ぼす影響
グリーンエコノミーで最も影響を受けると考えられるのがエネルギー産業です。
グリーン成長戦略ではカーボンニュートラルの達成に向けて、洋上風力発電をはじめとした再生可能エネルギーの導入や水素発電の追求などを掲げています。
また、自動車産業も影響を受ける業界のひとつです。グリーン成長戦略では、2030年代半ばまでに新車販売の100%EV化が要求されています。
グリーンエコノミーに対する企業の取り組み
グリーンエコノミーはすでに始まっています。この項目では企業の取り組みを紹介します。
洋上風力発電
大手商社の丸紅が中心となった特別目的会社は2022年12月頃の完成を目指して、秋田県能代港と秋田港で国内初の大型洋上風力発電を建設しています。
このプロジェクトでは、能代港と秋田港合計で出力4200キロワットの風車を33基建設する予定です。
また、戸田建設やENEOSなどの合同会社は、長崎県五島市沖で浮体式による8基の洋上風力発電(計1万6800キロワット)の建設計画を発表しています。
水素発電
大手家電メーカーのパナソニックでは水素を利用した家庭用の発電機を開発・販売しています。
また、大規模な発電には大量の水素が必要です。そのため、川崎重工業や千代田化工建設では、大量の水素を運搬するための輸送技術を開発しています。
EV
トヨタ自動車では複数の中国企業とEV開発会社設立のための合弁契約を締結し、グリーン成長戦略に掲げられた目標の達成を目指しています。
物流
ヤマト運輸は低公害車の導入や電車・船舶を利用した運送、台車を使った集配といった取り組みを行っています。また、佐川急便ではEVトラックの導入を積極的に進めています。
食料
クボタではFCV(燃料電池車)中・小型耕運機の20年代後半までの商用化に向けて開発中です。また、井関農機では、業務提携企業とともに雑草を抑える「自動抑草ロボット」の開発に取り組んでいます。
グリーンエコノミーに関連した職業や働き方を紹介
グリーンエコノミーにはさまざまな職業や働き方があります。その中から代表的なものをピックアップして紹介します。
グリーンエコノミー関連の職業
- 環境・生物・自然・再生可能エネルギーなどの研究者
- 環境保全NGO職員
- 環境アセスメント調査員
- 環境保全エンジニア
- 風力発電エンジニア
- 環境保全や再生可能エネルギーに関する機器などの開発・製造・販売を行う企業の社員
- 持続可能な林業・農業 など
グリーンエコノミーに関連した働き方
上記の職業に就くことがグリーンエコノミーに関連した一般的な働き方です。
ただ、それ以外にも環境に配慮したりカーボンニュートラルに取り組んだりしている企業で働くことも、グリーンエコノミーに関連した働き方のひとつです。
たとえば、低公害車やEVトラックを導入している運送会社で働くことが挙げられます。そういった意味では、自転車による食品や荷物の配送もグリーンエコノミー的働き方であるといえます。
グリーンエコノミー業界で働くために専門的な知識や技能は必要?
環境・生物・自然・再生可能エネルギーなどの研究者、環境保全NGO職員、環境アセスメント調査員、環境保全エンジニア、風力発電エンジニアは大学レベルの専門知識や技能と一定の経験が必要になります。
環境保全や再生可能エネルギーに関する機器などの開発・製造・販売を行う企業の社員の場合は、各部門によって異なり、開発部門であれば大学レベルの専門知識や技能と一定の経験が必要になります。
製造・販売分野では特別な知識や技能・経験は比較的必要ないかもしれません。
林業・農業には専門的な知識や技能と一定の経験が必要ですが、林業家や農家または各法人に就職したうえで働きながら習得することも可能です。
なお、荷物や食品の配送員であれば特別な知識や技能・経験を必要ないでしょう。
まとめ
2030年に向けてグリーンエコノミーの注目度はさらに高まると考えられます。
それを表すように、三菱商事では2030年までに2兆円、日産自動車でも2022年からの5年間に同額の投資を予定しています。
これら企業による積極的な動きは、グリーンエコノミーが成長産業であることの証かもしれません。現在の仕事に満足できていないのであれば、グリーンエコノミーへの転職を選択肢のひとつに加えてみてもいいかもしれません。
成長が期待できるグリーンエコノミー関連の業界への転職も選択肢のひとつでしょう。