製造業は、日本の産業の基盤と言えます。しかし、新型コロナウイルスや少子高齢化、技術の進歩といったさまざまな課題に直面しています。
新規事業は企業を成長させる重要な要素ですが、特に中小企業の場合、これらの課題は一層厳しく、新たな事業を立ち上げることによるリスクもあります。
そこでこの記事では、製造業が抱える課題から新規事業の立ち上げまで、具体的にどのように取り組むべきポイントをみたいきたいと思います。
製造業が抱える課題
製造業は、社会全体に影響を与える多くの課題に直面しています。これらの課題は、各社の業績や事業の持続可能性にも大きなインパクトをもたらします。製造業の課題は多岐にわたり、それぞれが異なる影響を及ぼします。これらの課題を理解し、適切に対応することが、製造業の持続的な成長と成功にとって重要です。
直面する課題と影響
製造業が直面する課題は多岐にわたります。これらの課題は、社会や経済、技術など多くの要素に影響を受けます。これらの要素は相互に関連しており、一つの要素が変化すると、他の要素にも影響を及ぼします。
新型コロナウイルスの影響
新型コロナウイルスの感染拡大は、製造業にとって大きな課題となりました。感染症の拡大により、多くの工場が生産を停止または減産せざるを得なくなり、これが供給チェーンに大きな影響を与えました。部品供給の停滞は、製品の納期遅れや品質問題を引き起こし、企業の業績に大きな打撃を与えました。この問題は、特にグローバルに展開する製造業にとって深刻で、その解決には時間と労力が必要となりました。
少子高齢化と労働人口
少子高齢化は、製造業にとって別の大きな課題です。少子高齢化による労働人口の減少は、製造業の生産量に直接影響を与えます。特に、中小企業はこの問題により大きな影響を受けています。労働力不足は、生産量の低下だけでなく、新製品の開発や品質管理など、企業の成長と競争力にも影響を与えます。
半導体不足
半導体不足は、製造業全体で供給の安定性に影響を与え、生産計画を立てることが困難になっています。半導体は、自動車からスマートフォン、家電製品まで、幅広い製品に使用されています。そのため、半導体の供給不足は、製造業全体に大きな影響を与えています。
技術と人材に関する問題
製造業が直面するもう一つの大きな課題は、技術と人材に関する問題です。これらの問題は、製造業が持続的に成長していく上で必ず解決しなければならない課題です。
自動化の遅れとDX
デジタルトランスフォーメーション（DX）が進む中での自動化の遅れは、製造業の競争力の低下につながっています。自動化とDXは、製造業が効率性を向上させ、生産コストを削減するための重要な手段です。しかし、これらの技術を導入するためには、大きな投資と時間が必要であり、特に中小企業にとっては大きな負担となります。
技術継承問題
製造業では、高度な専門技術が必要となることが多く、ベテランが引退するとその技術が失われるリスクがあります。この問題は、特に伝統的な製造業や職人技を必要とする業界で深刻です。技術継承の問題を解決するためには、教育と訓練が重要となります。
スマートファクトリーと第5次産業革命
製造業の未来においてもこれらの課題は続く可能性が高いです。しかし、第5次産業革命の波に乗ることで、これらの課題に対処し、製造業の新たな可能性を開くことができます。今後、製造業に求められることは、AIやIoTなど新しい技術を取り入れ、より効率的で高品質な製造を目指すことです。これらの技術は、製造業が新たな価値を創造し、競争力を維持するための重要な要素です。
AIとIoTの活用
AIとIoTを活用することで、製造業は効率性や品質を大きく向上できる見込みです。AIは、生産プロセスを最適化し、品質を向上させるための重要なツールです。一方、IoTは、製造業がリアルタイムでデータを収集し、生産プロセスを監視するための重要な技術です。
人と機械の協働
人と機械が協働することで、より高度な製造が可能になり、人手不足などの課題も解決できます。人と機械の協働は、製造業が新たな価値を創造し、競争力を維持するための重要な戦略です。これにより、製造業は、より複雑で高度な製品を効率的に生産することが可能となります。
効率化と生産性向上
製造業における効率化と生産性の向上は、無駄を削減することから始まります。特に「かざふてつどう」と呼ばれる7つの無駄が指摘されています。
| 分野 | 説明 |
|---|---|
| 「か」加工 | 不必要な加工は、材料費だけでなく、時間も無駄にします。 |
| 「ざ」在庫 | 過剰な在庫は資金を拘束し、管理コストもかかってしまいます。 |
| 「ふ」不良 | 品質が悪いと、手直しによるコストがかかり、信頼性も失われます。 |
| 「て」手待ち | 製造ラインでの待ち時間が多いと、効率が悪くなってしまいます。 |
| 「つ」作り過ぎ | 必要以上に製品を作ると、在庫として積もってしまい、資金を拘束します。 |
| 「ど」動作 | 無駄な動作は作業員の負担を増やし、効率を下げてしまいます。 |
| 「う」運搬 | 製品や材料の無駄な運搬は、時間とコストがかかります。 |
中小企業の製造業に新規事業は必要か？
製造業の中でも中小企業は、日本経済の大きな柱でありながら、厳しい状況に直面しています。そこで求められるのが、新規事業の立ち上げです。新規事業が中小企業の製造業にどれだけ必要なのか、ポイントを押さえておきましょう。
新規事業の目的
新規事業を始める理由はいくつか存在しますが、中小企業の場合は特に「売上拡大」と「リスク分散」が目的として挙げられます。
- 売上拡大
既存の製品やサービスだけではなく、新しい領域でビジネスを展開することで、売上を増加させます。中小企業にとって、新規事業は成長への道とも言えます。 - リスク分散
一つの事業に依存するよりも、複数の事業を持つことで、一部の事業が不振になっても全体への影響を減らすことができます。
既存事業との関連
新規事業を立ち上げる際には、既存の事業とどの程度関連があるかを検討することが重要です。関連性が高い場合、既存の顧客やリソースを有効活用できる可能性が高くなります。全く関連がない新規事業では、成功させるために多くの投資と時間が必要になります。
- シナジー効果
関連性が高い場合、既存事業の顧客やスキルセットを新規事業で活用できます。これにより、新規事業の立ち上げコストが削減できる場合もあります。 - スピンオフ
一方で、全く新しい領域へ進出する場合もあります。このときは、「スピンオフ」と呼ばれる独立した事業ユニットを作ることが多いです。スピンオフにはリスクが高いものの、成功した場合のリターンも大きいです。
実行することの重要性
新規事業を成功に導くためには、アイデア生成だけでなく、実行力は新規事業を成功に導くために欠かせない要素です。計画をしっかりと立て、その計画に基づいて事業を進行させる体制が求められます。
- 効果的な計画
事業成功のためには、具体的かつ実行可能な計画を策定する必要があります。計画が明確であれば、その実行もスムーズに進むでしょう。 - PDCAサイクル
計画（Plan）、実施（Do）、チェック（Check）、行動（Action）の繰り返しによって、新規事業の方向性を早期に評価することができます。これにより、途中で必要な修正や調整が効率よく行えます。
製造業の新規事業立ち上げの課題
新規事業を展開する製造業には多くの課題が存在します。新規事業創出プログラム「アウトレ」が2023年6月に実施した調査によれば、製造業の新規事業者の4割以上が「新規事業の立ち上げ」に課題を感じています。
調査によると、35.7%が新規事業のノウハウや知識が社内に不足していると答えており、さらに、33.3%が新規事業を担当する人材の不足・確保が難しいと答えています。既存事業と新規事業で必要なスキルが異なるため、このギャップが課題となっているようです。
他に、アイデアはあるが製品化できていない、有望な事業の見極めが困難、計画がスムーズに進まないなど、事業を実現させていく難しさが新規事業のハードルとしてあげられています。
これらの課題を解決するためには、専門性の高い人材の確保と教育、具体的な計画が求められます。
※出典元：
新規事業創出プログラム「アウトレ」
製造業が新規事業を立ち上げるために取り組むこと
製造業は独自の強みと伝統を持っていますが、今の時代に合わせて進化する必要があります。新規事業の立ち上げはその一環として避けて通れないでしょう。
事業計画の作成
新規事業を立ち上げる前に、まずは市場調査が必要です。お客様のニーズや競合他社の動き、市場の大きさなどを取り巻く環境を理解する必要があります。調査の結果をもとに、具体的なアイデアを検証し、戦略を作成してください。
戦略とは、事業の方向性や目標、市場戦略などを総合的にまとめたものです。この戦略には、目標、予算、期限などを明確にしておくと良いでしょう。
戦略ができたら、次に考えるべきはビジネスプランです。短期的な利益だけでなく、長期的なビジョンも考慮してください。例えば、高品質な製品を作るためにどのような技術や人材が必要か、販売チャネルは何が最適かなど、総合的に考えましょう。そしてそれらを具体的な計画書であるビジネスプランにまとめます。
新規事業を支援する外部サービスの活用
事業を迅速にスケールするには、外部の専門家やサービスを活用することも一つの方法です。選ぶ際のポイントは、そのサービスが自社のビジョンや目標に合っているかどうかです。また、実績や評判も重要な判断基準になります。
外部サービスのメリットは、専門的な知識やリソースを即座に得られる点です。しかし、外部サービスに依存しすぎると、自社のスキルが育たない危険もあります。バランスを取ることが重要です。
組織文化の形成
新規事業の成功には、社内の協力が欠かせません。そのため、まずは社内ミーティングや研修を通じて、企業の成り立ち、歴史、そして理念を社員全体で共有することが重要です。これにより、社員それぞれが企業に対する理解と繋がりを深め、より良いアイデアや提案が生まれやすくなります。
社員が自由に意見やアイデアを発表できる環境を整えることも大切です。具体的には、定期的に情報共有の場を設けることや、アイデアを共有するための社内ツールを導入するなどして、新しいアイデアが自然と湧きやすい文化を形成することができます。
新規事業には失敗がつきものですが、その失敗を許容し、次に生かすことができるような文化作りも必要です。失敗した場合でもその経験を「学びの機会」とする文化を確立することで、新規事業が持つリスクをうまく管理し、成功につなげる可能性を高めることができます。
新規事業立ち上げに必要な人材とは？
新規事業の成功には多くの要素が関わっていますが、その中でも特に人材の重要性は高いです。どのような人材が必要なのか、そしてそのような人材をどのように確保するか、育成すればよいかを考える必要があります。
まずは人材を確保する
新規事業の立ち上げには、さまざまなスキルが要求されます。マーケティング、財務、プロジェクト管理など、一人の人材でカバーできる範囲は限られています。特に中小企業や資金に制約がある場合、複業や外部の専門家と協力する方法も有効です。
多くの場合、企業には必要な専門スキルが足りていないという問題があります。例えば、データ分析やAI技術が必要な場合、そのような専門性を持つ人材が社内にいないと、プロジェクトは頓挫してしまいます。
資金的な制約から専門の人材を採用できないというケースは、特に中小企業でよく見られます。近年では複業が増えており、専門スキルを持つ外部の人材と協力することも一つの方法です。例えば、プロジェクトベースで契約を結ぶことで、長期的な人件費の負担を減らしながら必要なスキルを確保することができます。
プロジェクトを推進する
ただし、専門スキルがあるだけでは、新規事業の成功は難しいです。プロジェクトを全体としてまとめ上げる能力やチーム内で円滑なコミュニケーションが取れる能力も必要です。
プロジェクトマネージャーは、プロジェクト全体を俯瞰する役割として重要なポジションであり、リーダーシップを発揮してタスクを効率よく進める能力が求められます。
また、多様な視点や柔軟な発想は、新規事業において重要な要素です。若手とベテランが協力することで、革新性と安定性を両立させたプロジェクト運営が可能となります。
継続的な人材を育成する
人材を一度確保したからといって、その後の育成が不要なわけではありません。新規事業は長期にわたります。メンバーが持続的にスキルを向上させるためにも、社内で定期的に研修を行ったり、外部のセミナーやカンファレンスに社員を派遣するなど、継続的な教育が必要です。
この他、先輩社員が後輩社員に教えるメンタリング制度や社内勉強会を取り入れることで、社内のノウハウを効率よく共有することができます。
モチベーションを管理する
新規事業は不確実性が高く、そのストレスは従業員にも影響を及ぼします。従業員が長期間モチベーションを保てるように、福利厚生やキャリアパスの設定も重要です。例えば、フレックスタイム制や在宅勤務を許可することで、働きやすい環境を作る努力も必要です。
社員が長期間働きやすい環境を作るため、健康診断やレクリエーション、社内のカフェなど、多角的な福利厚生を考えると良いでしょう。
従業員自身が成長できる道が見えると、モチベーションも高まりパフォーマンスも良くなるはずです。年に一度の昇給や昇格のチャンスを設けるなど、目標に向かって働く意欲を高めることができます。
まとめ
この記事では、製造業が抱える課題や新規事業創出の難しさについて紹介しました
新規事業は製造業において、企業の成長だけでなく存続そのものにも影響を与える大事な要素です。しかし、資金や人材の不足といった制約があり、自社だけで新規事業を進めるのは難しい状況が多いです。
資金や人材といった多くの制約に直面しながらも、製造業、特に中小企業にとって、新規事業創出は企業の成長と存続に直結する重要な活動です。