「やらなければならない仕事があるけれど、どうにもやる気が出ない」という経験を持つビジネスマンは少なくないでしょう。いつの時代もモチベーション管理は仕事の成否に大きく影響するポイントです。
働き方の多様化が進む中、やる気を上手にコントロールするには当人の意識改革も大切になっています。今回はやる気の素となる「ドーパミン」という物質にスポットライトを当てて見ていきましょう。
ドーパミンとはどんなもの?
ドーパミンとは人間の中枢神経系にある神経伝達物質のひとつです。神経伝達物質はドーパミンの他にも様々な種類が確認されており、それぞれが人間の精神状態に大きな影響を及ぼすと考えられています。
人間が幸福感を感じるような経験をすると、脳内の側坐核と呼ばれる部分でドーパミンが分泌されてポジティブな精神状態が形成されるのです。
一方で過剰に分泌されたドーパミンは依存症の原因になると言われているので留意しておきましょう。このドーパミンの分泌量を程良くコントロールする事が仕事のやる気向上に繋がります。
なぜドーパミンがやる気の素になるのか
ドーパミンは主に黒質線条体路・中脳辺縁系路・中脳皮質路という3つの神経経路で働く神経伝達物質です。このうち中脳皮質路で作用するドーパミンは脳内の「報酬系」と呼ばれる神経を活性化させるのに一役買っています。
例えばお酒を飲んで酔っ払った時、一時的に幸福感を感じるという人も多いでしょう。これはお酒に含まれているアルコール成分がドーパミンの働きを活性化させる事によって、脳内の報酬系が刺激されるためであるとされています。
ドーパミン自体が人間をポジティブな気持ちにさせるのではなく、ドーパミンによって報酬系の神経が刺激される事でやる気が起きるようになるのです。
また、ドーパミンは人間の短期的記憶領域における効果も期待されています。一時的に物事を覚えておく、同時に複数のタスクを処理するなどビジネスマンにとって必要なスキルにもドーパミンが有用です。
ドーパミンを増やすためのアプローチ方法
何か良い事が起きるのを待っていては、仕事のやる気がいつでるのか分かりません。重要なのは能動的にドーパミンの分泌を促す工夫を凝らし、上手にモチベーションをコントロールする事です。
ドーパミンは達成感・幸福感・喜びといった人間の感情に呼応して分泌されます。日々の仕事でも実践可能なドーパミンの出し方には、以下のような取り組みがあるので参考にしてみてください。
小さな目標をクリアしていく
ドーパミンを分泌させるには、脳に達成感を味わわせるのが有効だとされています。この達成感は大きなものである必要はありません。むしろ小さな達成感をコンスタントに与える事によって、仕事へのやる気を持続させられると言えるでしょう。
そのためには自分が出来る範囲で達成しやすい目標を設定し、それをクリア出来るよう仕事に取り組むのがおすすめです。例えば「いつもより5分早く定例業務を終わらせる」「昨日より1件多く営業先を回る」「積極的に電話を取る」といったものが一例として挙げられます。
上手くいけば「目標のために頑張る→達成する→ドーパミンが分泌されてやる気が出る→新しい目標を作る」という理想的なサイクルが完成するでしょう。
チームでの成果を共有する
「誰かから認められた」という承認欲求を満たす事もドーパミンの分泌を促します。承認欲求によるドーパミン分泌はSNSで暴走してしまうケースも見受けられますが、職場においては比較的コントロールが容易です。
例えばチームで仕事に取り組んでいる場合は、チームでの成功や成果を積極的に情報共有してみましょう。所属しているチームの評価が上がる事で適度に承認欲求が刺激され、ドーパミンの分泌が進む可能性があります。
また、チーム内でのコミュニケーションも活発になるので業務能率向上にも効果が期待出来るでしょう。
頑張った自分へのご褒美を用意する
ドーパミンが作用する報酬系はその名の通り、何らかの報酬によって刺激される神経系です。したがって、自分の仕事に対してご褒美を用意しておくとドーパミンの分泌を促す効果が期待出来ます。
「今日の仕事が片付いたら呑みに行って良い」「今回の商談が成立したら少し贅沢な入浴剤でお風呂に入る」など、頑張った自分を労わってあげましょう。なお、ドーパミンは脳や身体を実際に動かしている時に分泌されると言われています。
何にもやる気が起きず手が動かないような状態でも、自分へのご褒美を設定する事で仕事に取り組み始めるきっかけとなるのでおすすめです。
軽い運動を取り入れる
有酸素運動もドーパミンの分泌に有効です。有酸素運動は体内の血流を良好にして、脳を活性化させる効果があります。脳が刺激される事でドパーミンの生成が促され、結果的にやる気が向上するという仕組みです。
特にデスクワークが多い職種の場合は同じ姿勢が続く事で血行が悪くなりがちなので、休憩時間や些細な空き時間に適度な有酸素運動を取り入れてみてください。手軽なものとしては自席でのストレッチや、会社近くの散歩などがおすすめです。
好きな音楽を聴きながら仕事に取り組む
2009年にカナダのマギル大学が科学誌『ネイチャー・ニューロサイエンス』に掲載した論文では、音楽を聴くという行為にドーパミンの分泌を促す効果が確認されました。好きな音楽を聴くと適度な高揚感が得られ、その状態で脳や身体を動かす事で効率的にドーパミンが分泌されるのです。
職場の規定上問題がなく、作業にも支障が出ない環境であればイヤホンで音楽を聴きながら仕事に取り組んでみるのも良いでしょう。
瞑想する
ドーパミンは脳や身体を動かす事で分泌が促される事は前述した通りですが、その真逆である瞑想にもドーパミン放出効果が期待されています。チベット仏教の修行者の脳活動の分析によると、瞑想にはガンマ波と呼ばれる脳波の増幅効果が確認されました。
ガンマ波は脳の高次精神活動に影響を与え、集中力・記憶力・幸福感の向上に効果的だと考えられています。瞑想によってリラックスした脳が感じる幸福感が、ドーパミンの分泌を促すとされているのです。
ドーパミンが増える食べ物
普段の食生活に気を配るだけでも、ドーパミンの分泌量を増やす事は可能です。ドーパミンは必須アミノ酸であるフェニルアラニンと、アミノ酸であるチロシンの合成で生み出されています。
この2種類の物質は食べ物にも含有されているため、含有量の多い食品を意識的に摂取すればドーパミンの生成を手助け出来るのです。代表的なものとしては乳製品や大豆製品が知られています。日々の食事にチーズやヨーグルト、納豆や豆腐などを積極的に取り入れてみてください。
ドーパミンを上手にコントロールして仕事のやる気を出そう
「やる気を出す」と言うと一苦労しそうな印象かもしれませんが、やる気の素となるドーパミンの分泌を意識的に促すのはそう難しくありません。大切なのは小さな達成感や幸福感を自分に与えてあげる事です。
やさしい目標の設定や休憩中のストレッチ、自分へのご褒美など普段の仕事で実践しやすい取り組みでも十分に効果が期待出来ます。
「自分らしい働き方」が注目されるようになった現代においては、仕事への取り組み方も自分で管理する姿勢が求められていると言って良いでしょう。ドーパミンと上手に付き合いながら、ポジティブな気持ちで仕事に臨んでいきましょう。
出典
・https://studyhacker.net/dopamine-bunpitsu
・https://www.haraacademy.jp/blog/harahisako-column/meisou-effect-work-efficiency-up.html
・https://imidas.jp/jijikaitai/k-40-105-17-01-g654