技術革新の波が押し寄せる中で、ひとりの技術者としてどう成長していくべきか、迷いを感じている方もいるかもしれません。
技術士は各技術部門の最先端で活躍する人材として、大きな信頼を得られる国家資格です。
技術士になるためには、技術士試験に合格し登録する必要があります。技術士試験は、技術士第一次試験と技術士第二次試験に分けられます。技術士試験の難易度は高く、合格するためには専門知識と広範な視野が求められます。試験に合格すれば、年収アップや転職などキャリアアップにも期待できる資格です。
ここでは、「技術士」という資格と技術士試験の内容についてみていきます。
技術士とは?
まずは、技術士という資格の定義とその役割についてみていきましょう。
技術士とは、科学技術に関する高度な専門知識と応用能力、そして豊富な実務経験を持つ優れた技術者を指します。これらの技術者は、技術士制度という国による資格認定制度に基づき、その資格を認定されます。
技術士制度
技術士制度は、科学技術に関する専門知識と高度な応用能力、そして豊富な実務経験を持つ優れた技術者の育成を目的とした国の資格認定制度です。この制度により、技術士の資格を持つ技術者は、その名称を使用することが認められます。
技術士の役割
技術士は、科学技術に関する高度な専門的応用能力を必要とする業務を担当します。具体的には、計画、研究、設計、分析、試験、評価などの業務を行います。また、公共事業の計画や設計監理、地方自治体の業務監査、技術調査や鑑定、中小企業向けの技術相談など、さまざまな分野で活躍しています。
技術士補
技術士を目指す最初の段階は、技術士補となることです。技術士補は、技術士の業務をサポートする役割を担い、技術士からの指導や実務を通じて経験や能力を磨いていきます。
技術士補の役割は、技術士と連携し協力することが重要です。そして、将来的には技術士の資格を取得し、自身のキャリアを築くことが期待されます。
技術士試験とその内容
技術士試験は、優れた技術者を育成するための国が定めた資格制度です。
この試験では、広範な科目についての知識と実務経験が問われます。技術士は、公共のプロジェクトに関わりながら、社会の安全性や公共の利益を守る役割を果たしています。
技術士試験の概要
技術士試験は、第一次試験と第二次試験からなる国家資格の試験です。
第一次試験
技術士第一次試験は、科学や技術に関する基礎知識と法律、そして選択した技術分野についての詳しい知識を問う試験です。試験の内容は、大学のエンジニアリング課程(工学、農学、理学等)修了レベルに相当します。年齢や学歴、国籍、仕事の経験などによる制限はなく、誰でも受けることができます。
試験は基礎科目、適性科目、専門科目の3つの科目からなります。「基礎科目」は、科学技術全般の基礎知識、「適性科目」は技術士等の義務の規定の遵守に関する適性、「専門科目」は、20ある技術部門の中から、自身で選んだひとつの技術部門に関する知識を問います。これら3つの科目を筆記試験で行います。一部の試験科目は、特定の資格を持っている場合は免除されることもあります。
第二次試験
技術士第二次試験は、21の技術部門の中から、自身で選択した部門についての高度な専門知識と応用能力を評価する試験です。この試験を受けるには、技術士補の資格(技術士第一次試験に合格するか、指定された教育課程を修了する)と特定の業務経験が必要です。
業務経験の要件は、技術士補としての活動期間や科学技術に関する業務の経験期間などが考慮されます。また、大学院の研究経歴がある場合、その期間(最大2年)を業務経験の期間から差し引くことも可能です。
第二次試験は、筆記試験及び口頭試験で行われます。筆記試験では、選択した技術部門の「必須科目」と「選択科目」の試験を受けます。必須科目では専門知識や問題解決能力を問われ、選択科目ではその科目に関する知識と応用力を問われます。口頭試験は筆記試験の合格者だけが受けることができ、技術士としての適性やコミュニケーション能力、リーダーシップなどが問われます。
技術士の役割と活躍場所
技術士は、高度な専門知識を持ち、技術的な問題を解決する役割を担っています。彼らは、企業や自治体、国家機関などさまざまな組織で活躍しています。
技術士の主な仕事は、技術的な問題に対してアドバイスや解決策を提供することです。例えば、製品の開発や生産プロセスの改善、環境保護や省エネルギー対策などがあります。また、法律や規制に関するアドバイスも行い、企業が法律を守りながら仕事をすることをサポートします。
技術士は、製造業や建設業などさまざまな産業分野で活躍しています。また、地方自治体や国家機関でも需要があります。特に公共事業では、技術士が建築や設計、監理、調査、評価などの重要な役割を担っています。
近年では、情報通信やエネルギーなどの分野でも技術士の需要が高まっています。技術士は、技術の進歩に伴って新たな課題に取り組むことが求められており、ますます多様な場所で活躍しています。
技術士の資格を取得するメリットとデメリット
難易度の高い技術士試験を突破して資格を取得することには、さまざまなメリットがあります。反面、資格取得のためには相当の努力が必要になるはずです。その点を踏まえて技術士の資格取得のメリットデメリットをみていきましょう。
メリット
技術士を取得するメリットはたくさんあると思いますが、明らかにメリットとなる点を紹介します。
信頼性と評価の向上
技術士の資格取得は、高度な専門知識を持つことで得られる信頼性と評価の向上というメリットがあります。社会の様々な問題を技術的に解決する役割を担っている技術士としての立場は、専門性や課題解決能力が評価される機会を増やします。
収入の増加
技術士の資格を持つことで、収入が増える可能性もあります。男性の平均年収は約632万円、女性は約543万円とされていますが、これはあくまで平均であり、経験年数や企業の規模、地域によって異なります。特に、大企業に採用されたり、自身でビジネスを開始したりすると、年収が大幅に上がる可能性もあります。
人脈作り
技術士の資格取得は人脈作りにも寄与します。技術士同士で形成されるコミュニティを通じて、新たな人脈を広げることができます。これは新たなビジネスチャンスを生み出す可能性をもたらします。
転職市場での強み
転職市場においても技術士の資格は大きな強みとなります。この資格は、高度な専門知識と課題解決能力の証明となり、企業からの評価を高める可能性があります。これにより、より良い条件での転職が可能になるかもしれません。
デメリット
難易度が高い資格であるために取得までの労力と取得後の継続的な努力も必要です。
プレッシャーの増加
デメリットとして考えられるのは、技術士としての役割に伴うプレッシャーの増加です。高いレベルの業務遂行が求められることから、仕事のストレスが増える可能性があります。
時間と労力の投資
技術士の資格取得は、相当な時間と労力を必要とします。技術士試験は非常に難易度が高いため、一定の時間を割いて勉強に取り組む必要があります。このため、仕事やプライベートとのバランスを考えながら、試験勉強に励むことが求められます。
実務経験と継続的な学習の必要性
資格を取得しただけでは、その価値を十分に活用することは難しいでしょう。資格を活用するためには、それを裏付けるような実務経験や継続的な学習が必要となります。資格取得はあくまで一つの手段であり、それをどのように活用するかがキャリア形成において重要となります。
製造業技術者は技術士資格をどう見る?(アンケート結果)
オモシゴジャーナルでは、2023年5月に技術士資格に関するインターネット調査を実施しました。
主に技術系の会社員として働く30歳から49歳の男女212名、主に製造業の電気、電子、機械の職種に携わる皆さんに回答をいただきました。
- 技術士資格について
- 具体的な内容まで詳しく知っている:31/212 = 14.6%
- 名前は知っているが、詳細は知らない:105/212 = 49.5%
- 初めて聞いた:76/212 = 35.8%
- 技術士資格の取得を考えたことはありますか?
- 現在も考えている:19/212 = 9.0%
- 以前考えたが、現在は考えていない:37/212 = 17.5%
- 考えたことがない:149/212 = 70.3%
- 技術士資格を持っている:7/212 = 3.3%
- 技術士資格があなたの現職にどの程度関連していると感じますか?
- 大いに関連している:14/212 = 6.6%
- 何らかの関連性がある:48/212 = 22.6%
- あまり関連していない:43/212 = 20.3%
- 全く関連していない:67/212 = 31.6%
- わからない/該当しない:40/212 = 18.9%
これらの結果から、半数近くの人が技術士資格の名前は知っているものの、具体的な内容まで詳しく知る人は約15%と少ないことがわかります。また、技術士資格の取得を考えている人は全体の約9%で、大部分の人が考えたことがないと回答しています。
さらに、現職と技術士資格の関連性については、全く関連していないと感じる人が最も多く、約32%で、大いに関連していると感じる人は約7%と少ないです。
- 技術的スキル
回答者の中には、特定の技術的スキルを重要視する人が多く見られました。
これには「制御設計」「測定器の使用、測定結果の解釈」「ハンダ作業」「IT」「構造設計」「機械設計のスキル」「電気回路における知識及び電気制御のプログラミング技術」「品質管理」「無線技術」「システムズエンジニアリング」「研究開発用設計スキル」「プログラム」「回路設計能力」「ハードウェア設計スキル」などが含まれます。 - コミュニケーションスキル
技術的なスキルだけでなく、コミュニケーションスキルも重要と考える回答者が多く見られました。「コミュニケーション力」「対人関係」「英語とコミュニケーション能力」「対話力」などが含まれます。 - その他のスキル
技術的スキルやコミュニケーションスキル以外にも、「忍耐力」「考察力、チームワーク、コミュニケーション」「想像力、知恵」「実務経験」「全体日程管理」「必要な知識」「マネージメント」「システム設計」「分析力」などのスキルも重要とされていました。
これらの回答からは、技術系の職種・業界においては、特定の技術的スキルだけでなく、コミュニケーションスキルやその他のスキルも非常に重要であることが伺えます。
また、各個人が重視するスキルは多岐にわたり、そのバラエティは職種や業界の多様性を反映しているとも言えるでしょう。
まとめ
技術士試験は、非常に難易度の高い試験ですが、合格することで得られるメリットは多岐にわたります。技術士としての資格を取得することで、社会的な信頼性が向上し、収入も増加する可能性があります。さらに、技術士同士のコミュニティを通じて、新たな人脈を広げることができます。
ただし、資格取得には相当な努力が必要です。技術士試験は非常に難易度が高く、一定の時間を割いて勉強に取り組む必要があります。また、資格取得後も、実務経験や継続的な学習が必要です。資格取得はあくまで一つの手段であり、それをどのように活用するかがキャリア形成において重要となります。
皆さんにとって、今後のキャリア形成において、技術士試験の受験は一つの選択肢となるかもしれません。技術士試験に興味を持った方は、ぜひ挑戦してみてください。
参照:
技術士になるには(https://www.engineer.or.jp/contents/become_engineer.html)
技術士制度について 令和 5 年 4 月(https://www.engineer.or.jp/c_topics/001/attached/attach_1680_2.pdf)